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» 2008年05月20日 12時00分 公開

ERPリノベーションのススメ(1):ERPはフロントシステムから見直せ! (1/2)

ERPの普及率が高まるなか、業務環境変化に合わせて機能拡張を行うERP再生ビジネスも着実に増えている。いま、住宅業界では住み心地を向上させる「リノベーション」という言葉がはやっているが、ここではERPの使い勝手を改善する色々な方法を考えてみたい。

[鍋野 敬一郎,@IT]

今度こそ、ERPをうまく使いたい

 現在、日本におけるERPパッケージの普及率は50%ほどに達しています。欧米の普及率は70%以上といわれていますから、今後、日本市場が成長するポテンシャルは欧米よりも大きいわけです。事実、ERPの普及が遅れていた中堅・中小企業の市場では、高い成長率を記録しています。

 こうした背景を持つだけに、ERP関連ビジネスも堅調に推移していますが、その内容は大きく2つに分かれています。1つは中堅・中小企業向けのERP新規導入ビジネス。もう1つはERP導入済みの企業において、ビジネス環境の変化に合わせて機能拡張やバージョンアップなどを行うERP再生ビジネスです。

 特に後者のERP再生ビジネスは存在感を増しています。これまでのIT業界で主流だったスクラップ&ビルドの考え方はハイリスクかつコストパフォーマンスの見合わない投資であり、導入済みのERPをリニューアルして活用度を向上させようと考える経営者が増えているのです。

 ひと昔前まで、ERP導入は先進企業のベストプラクティスを利用した業務改革の実現、高度情報化による競争力強化を実現するための確実な手段といわれていました。しかし、現実は厳しいものでした。

 無理なERP導入による業務の混乱や作業負荷の増大、導入後2〜3年で陳腐化する機能、コストパフォーマンスに見合わないランニングコストなど、さまざまな問題が発生し、多くの企業において、ERPに対する期待が次第に失望へと変わっていったのです。

 そのままあきらめてしまえば、よくあるERP活用失敗事例となるだけです。しかし中には「ERPを再生し、ビジネスの環境変化に対応した活用を目指したい」という企業もあります。筆者自身、「どうすればERPをもっと上手に使いこなせるのか」という相談を受けるケースが最近になって増えてきました。今回の連載は、そうした状況を受けて着想しました。多額のコストを掛けて導入したERP。たとえ一度は使いこなせなかったにしても、そのまま放っておくのは非常にもったいない話です。

 近年、住宅業界ではリノベーション──既存の建築物に改修を加え、機能性を高める──という言葉がキーワードとなっています。この連載ではERPを住宅になぞらえて、“ERP再生”に向けた取り組みを、具体的に、分かりやすくご紹介していきたいと思います。

入力画面を見直せ!

 さて、さっそく本論に入りたいところですが、まずは以下の事例を読んでみてください。ERP活用のよくある問題と、解決のポイントが分かる好事例の1つだと思います。

事例:製造業A社のチャレンジ

 製造業A社は3年前、会計から販売、購買、在庫、生産管理に至るまで、全社システムとしての活用を見据えた大規模なERP導入を行った。導入コストを抑えるために、標準機能に対する追加開発は最小限に抑え、操作性の悪さや煩雑さは人手で対応することとした。

 そのかいあってERP導入は無事、予定していた予算とスケジュールで成功。期待通りの性能を発揮し、ビジネス拡大に貢献、売り上げも計画以上の伸びを見せたが、ここでひとつ問題が発生した。事業拡大が当初計画を上回ったため、受注管理のオペレーション負荷がパンク寸前となってしまったのである。

 つまりこういう状況であった。A社では各販売拠点が独自の戦略を持ち、主要製品とオプション製品を各顧客の要望に合わせて販売していた。つまり、販売拠点ごと、顧客ごとに受注内容に特徴があり、そのきめ細かい対応と確実な納品を強みとしていたのだ。

 販売担当者は、各顧客に合わせた高度な受注管理、納期回答、請求処理などをERPの標準機能で実行していた。しかしビジネスが拡大するにつれ、顧客数、受注件数も飛躍的に増加し、担当者の販売管理能力に限界がきたのである。加えて、担当者が替わると業務効率が著しく低下してしまうため、担当者以外の人には代替できない特殊業務となってしまった。

 もちろん、人材育成による対応は不可能ではない。しかし、優秀な人材採用の難しさや、コストパフォーマンス、ビジネス拡大の傾向から考えると、ERPのオペレーション自体を見直す方が合理的と判断したのである。

 一般に、ERP標準の入力処理機能には、熟練度の低い要員を想定した取り消し機能や誤入力防止機能などは付いていない。また、機能性を重視しているため、1件の入力処理を完了させるのに複数画面の入力が必要だったり、マウスとキー操作の両方を組み合わせたりする複雑かつ手間の掛かる操作が多い。

 もちろん操作性を良くするための追加開発、機能追加も可能だが、コストアップやシステム負荷増大の原因となるため、ベンダでは推奨していない。従って現実的にはこうしたケースが生じやすい。

 A社では習熟度の低い担当者でも販売管理オペレーションを使用可能にするとともに、将来的には、アウトソーシングの利用や、一部得意先において受注入力自体を顧客側に開放する、といったことも考慮していた。

 そこでいろいろと検討を重ねた結果、ERP標準の販売管理機能を全面的に見直しし、ブラウザを使ったフロントシステムを開発。これを受注管理システムとしてERPと連携するとともに、販売管理業務の中でも請求処理や契約管理など、ERPが必要な業務を絞り込むことで、ERP標準の販売管理機能をそのまま利用する、という結論に達した。

 これによってERP専任担当者の必要はなくなり、社内外の幅広い利用者がこのシステムを使って受注処理できるようになった。ビジネスの環境変化に合わせた業務見直しと、ERP再生に成功したのである。


なぜ、フロントシステムを見直すべきなのか?

 以上のように、ERP導入企業において、フロントシステムを見直すケースは着実に増えています。導入コストを抑えるために標準機能を採用したものの、ビジネスの環境変化に対応できなくなったため、フロントシステムを見直すことで、コスト削減と環境変化対応を両立させる形です。

 また、最近は雇用形態が正社員、派遣社員、契約社員、アルバイト、取引先担当者、アウトソーシング先担当者といったように多様化しています。そうしたなかで、あらゆる立場の人が1つの業務を、同じシステムを利用して実行するケースが多く見受けられます。以前であればシステムIDを使い回していましたが、セキュリティやコンプライアンス強化、内部統制対応といった観点から、抜本的な見直しが必要となりました。

 こうした要因によって、機能としては十分だったERP標準仕様では対応できなくなり、これを補完するためにフロントシステムを刷新する、といったケースも多く見受けられます。

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