ERPはフロントシステムから見直せ!ERPリノベーションのススメ(1)(2/2 ページ)

» 2008年05月20日 12時00分 公開
[鍋野 敬一郎,@IT]
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フロントシステムの改善は、住み心地の改善と同じ

 さて、ではここで話を分かりやすくするために、ERPを住宅に置き換えて考えてみたいと思います。

 フロントシステムとは、住宅でいうと見た目のデザインの良さや、居間や食堂、玄関など、共有スペースの居心地の良さといった住み心地にかかわる部分に相当します。この部分のERPリノベーションは、住宅における住み心地の改善と同様に、優れたコストパフォーマンスと即効性が期待できます。

 これまでは入力画面などの操作性については、優先度の低い要件として扱われるケースが一般的でした。これはERPが高額であることも手伝って、そのユーザーが経営管理者や経理担当者など、ごく一部の責任者に限られていたためです。

 しかし、業務見直しと補完システムの構築によって、ERPが事業生産性拡大、業務効率化に役立つと分かっており、なおかつERPのユーザーが限られた社員から全社員に拡大しているいま、操作性や見た目は優先度の高いテーマに変わったといえます。

 新規にERPを導入する場合についても同じことがいえます。一般に、莫大な初期投資を気にするあまり、業務の見直しや操作性よりも、機能やアーキテクチャ、導入コスト、開発スケジュールなどを重視するケースが多く見受けられます。

 しかし導入後しばらくすると、機能やアーキテクチャによる優位性は陳腐化してきます。その代わり、最小限の要員でも確実に利用できること、多様な雇用形態の担当者でも作業効率が高いこと、研修なしで誰でも直感的に使えることといった操作性、すなわちフロントシステムの入力インターフェイスが注目されてくるのです。

各領域に見直すべきポイントが存在する

 こうした感覚は、家族の成長や環境変化に合わせて住宅の住み心地を良くするために、部屋の模様替えや改装を行うリフォーム、リノベーションに大変良く似ています。

システムは、直感的に操作可能であるべき

 以上のように、システムの操作性改善は即効性があり、かつ顕著な投資効果が期待できるERPリノベーションの重要ポイントの1つです。では、さらに一歩踏み込んで、システム操作性向上のポイントとは何なのでしょうか?

 昨年、セールスフォース・ドットコムのイベントで、同社CTOのパーカー・ハリス氏が講演しました。筆者はその言葉の中に答えがあると考えています。

『アマゾン・ドットコムやアップルのiTunes Storeの使い方を、皆さんは誰から教えてもらいましたか。研修を受けて使えるようになったのでしょうか。そんなわけはありませんね。こうしたシステムは初めから誰にでも使えるように、直感的で分かりやすい操作性を兼ね備えているのです。これからの業務システムもこうしたシステムと同様に、直感的で操作性に優れているべきです。操作が複雑で研修が長時間必要になるシステムは、すでに時代遅れになりつつあります』

 これこそ、ERPリノベーションを進めるうえで、まずはフロントシステムから見直すべき理由です。

改善のバリエーションはさまざま

 では最後に、どのような手段を使えばフロントシステムを改善することができるのか、具体的な方法を紹介したいと思います。

 筆者が実際に1番良く見掛けるフロントシステムは、マイクロソフトのExcelをバッチインプット(一括入力)のフォームとして利用するケースです。Excelはビジネスツールとして最も一般的なソフトウェアであり、文書管理にも、数値管理にも、さらには簡易データベースとしても使えます。筆者の知る限り、ERP標準の入出力機能を利用するより、Excelを利用する方が作業効率が良く、ユーザーの活用度も高いようです。最近ではマイクロソフトがMicrosoft Officeを業務アプリケーションのフロントシステムと位置付けて、ERPのオプションとして提供しています。

 次に多いケースが、フロントエンドにWebブラウザを利用し、その後ろにワークフローシステムやデータベースを置いてERPに連携させるものです。ワークフローシステムやデータベースを介することによって、システムを利用するユーザーのアクセス管理やログ管理を徹底し、セキュリティ面や内部統制対応を強化する狙いもあるようです。

ユーザーニーズに合わせてフロントシステムを選択する(クリックで拡大)

 IBMのNotes/Domino、NTTデータイントラマートのイントラマートなど、グループウェアを利用するケースもあります。さらに、新しいアーキテクチャとして、アドビシステムズのPDFフォームを使ったフォーム入力や、Adobe FLEX、Adobe AIRといった柔軟かつ表現力の高い技術を使ったフロントシステムも実用化されてきています。

 さらにウィジェットやガジェットと呼ばれるアプリケーションや、デスクトップで利用可能な小規模なアクセサリーソフトも、ERPのフロントシステムとして利用されるようになりつつあります。例えば、SAP ERPとBusinessObjects、アップルのiPhoneとの連携なども一例です。

 こうしたフロントシステムの特徴として、豊かな表現力、柔軟な画面レイアウトが挙げられますが、ERPの追加開発に比べると、はるかに短期間かつ低コストで実現することが可能です。要件や内容にもよりますが、開発期間は4〜6カ月程度で、開発投資額も1000万円未満が一般的のようです。

 ERPの導入効果に陰りが見えてきたと感じているいまこそ、まずは見た目のフロントシステムから見直してみてはいかがでしょうか。

筆者プロフィール

鍋野 敬一郎(なべの けいいちろう)

1989年に同志社大学工学部化学工学科(生化学研究室)卒業後、米国大手総合化学会社デュポン社の日本法人へ入社。農業用製品事業部に所属し事業部のマーケティング・広報を担当。1998年にERPベンダ最大手SAP社の日本法人SAPジャパンに転職し、マーケティング担当、広報担当、プリセールスコンサルタントを経験。アライアンス本部にて担当マネージャーとしてmySAP All-in-Oneソリューション(ERP導入テンプレート)を立ち上げた。2003年にSAPジャパンを退社し、現在はコンサルタントとしてERPの導入支援・提案活動に従事する。またERPやBPM、CPMなどのマーケティングやセミナー活動を行い、最近ではテクノブレーン株式会社が主催するキャリアラボラトリーでIT関連のセミナー講師も務める。


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