ERPの“事業仕訳け”でIT予算をもっと有効に!ERPリノベーションのススメ(8)(1/3 ページ)

IT予算が厳しく制限されているいまこそ、ITシステムの構築・運用上の無駄を徹底的に見直そう。ベンダやコンサルタントの意見に振り回されることなく、本当に必要なものを明確化できる自社ならではの判断基準を持とう。

» 2010年03月11日 12時00分 公開
[鍋野 敬一郎,@IT]

IT投資水準を早く回復させるためにも、徹底的に無駄を見極めよう

 2010年は景気後退の底から抜け出し、中止あるいは先送りにされていたIT投資が再開されることが期待されています。しかし各種調査機関の調査レポートなどを見ると、IT投資の回復はゆっくりとしたもので、地域や業種によって大きな差が出ることが予想されています。特に自動車や金融業界は欧米では回復が厳しく、中国やインド、ブラジルなど、アジア地域や南米では大きく伸びると見込まれているようです。

 日本はというと、多くのITベンダが「唯一、各業態でIT投資額が回復する兆しが見られない厳しい市場」と認識しており、アジア拠点を日本から中国へシフトするケースが目立っています。日本企業が再起し、IT投資を以前の水準に戻すためには、成長市場に対する積極的かつ効率的な取り組みと、これまで以上に徹底した無駄の削減が必要です。

 特にITシステムについては、各機能やその必要性、運用体制などを徹底的に見直す必要があります。先ごろ、国が歳出削減や行政改革を目的に、各事業の必要性やあるべき姿などを再検討する「事業仕訳け」を行い国民の関心を集めましたが、それと同様に、必要なもの、不要なものをきちんと見分ける“仕訳け”目線を持つことが運用効率化の大きなカギとなります。システムを運用するうえではごく当たりの前のことですが、厳しい状況の中だからこそ、こうした基本を徹底することが大切です。

“事業仕訳け”の視点で自社システムの現状を見直す

 では事例を紹介しましょう。IT予算を制限されたことから、システム運用のコスト構造やサービスレベルを再評価し、自社に最適な効率化を図った中堅製造業 H社のケースです。効率化というと「何らかの新しい取り組みを行う」と考えがちですが、場合によっては「計画を見送る」という選択肢もあることを教えてくれる好事例です。

事例:H社のIT投資戦略〜課題編〜

 中堅製造業、H社のIT投資方針が大きく変更されたのも、リーマンショックに始まる世界的な不況によるものであった。

 H社の現行基幹システムは大きく3つのシステムで構成されていた。情報システム部門が独自に開発し、改修を続けてきた販売管理システムと、会計パッケージで構築された経理システム、そして数年前にERPにリプレースした生産管理システムである。将来のことも見越して、ERPには海外展開が可能なSAPを採用していた。

 当初は、20年近く使い続けてきた販売管理システムの老朽化に伴い、販売管理システムを経理システムとともにERPに統合する予定だった。また、ERPのバージョンアップを行うことも計画していた。しかし、それらを実施しようとした矢先に景気悪化に見舞われ、「新規投資は原則凍結。さらに従来のIT費用を3年以内に3割削減する」という新しいIT投資方針が発表されたのである。投資案件はすべて役員会で検討され、妥当と判断されたもののみ許されることになった。

 計画の抜本的な見直しを余儀なくされた情報システム部門は、次の3つに課題を整理した。

 1つ目は、ハードウェアが老朽化している販売管理システムをどうするかである。現在のオフコンは利用限界まであと2年余りで、ベンダからは後継機種の販売予定がないことを聞かされていた。そこでERPパッケージの販売管理モジュールへの乗り換えを予定していたのだが、乗り換えるためには不足する機能が多く、これを補うためにはかなりのボリュームのアドオン開発が必要だった。だが、新たなIT投資方針によってその実行は不可能となった。

 2つ目は、生産管理システムとして稼働しているERPのバージョンアップへの対応である。システムは安定しており、機能面の課題は特にないのだが、そのパッケージの現行バージョンは保守期間終了が迫っていた。また、サーバのCPU使用率が上限に近付いていたため、ハードウェアの増強が必要だった。

 そして3つ目は、「すべてのIT費用を3年以内に最低3割削減する」ための具体的な実現計画を策定しなければならないことである。

 これらの課題に対応するため、情報システム部門はさまざまな情報を収集したほか、ベンダ、コンサルタントへの相談を通じて、次のような対応策を立案した。

 1つ目、販売管理システムの問題については、このオフコンを販売していたベンダに相談したところ、「仮想環境に機能を移行すれば、当面の間、現行システムを稼働させることが可能」とのことであった。原則的にシステムへの新規投資は凍結されている。そこで、課題の先送りではあるが、ERPへの移行はあきらめ、この案を採用せざるを得ないと判断した。

 2つ目の生産管理システムについては、現行システムの機能を強化することなく、ERPのバージョンアップのみを行うこととした。これは「テクニカルバージョンアップ」と呼ばれている手法で、新しいバージョンのERPパッケージの上に現行機能をそのまま移し替えるものである。バージョンアップに伴うシステムのアドオン開発や、インターフェイスの動作検証作業などは必要だが、ERPパッケージ自体には改修作業が発生しない。そのため移行作業を最小限に抑えられるほか、もう1つの課題であるサーバ増強に予算を割けるというメリットがあった。

 しかし3つ目、「3年以内に3割のIT費用削減」については対応策が見出せず、難問として残ってしまったのである。


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