連載
» 2008年09月25日 12時00分 公開

マスタデータ整備が、ERP活用の大前提ERPリノベーションのススメ(4)(1/2 ページ)

ERPの利活用というと、SCM、CRMとの連携など、機能拡張を第一に考えてしまいがちだ。しかしERPの能力を徹底的に引き出すためには、まずは足もとから固めることが大切だ。

[鍋野 敬一郎,@IT]

ERP導入・活用の本質はマスタデータの整備にあり

 ERPを導入する際の最も重要な作業の1つに、マスタデータの整備と、移行データのクレンジング(洗い直し)作業があります。これはERPシステムが、「統合マスタ」「統合データベース」というコンセプトのもとに、会計、販売、購買、在庫、生産といった幅広い業務において情報を正しくひも付けし、共有するうえで必須の作業です。

 例えば、従来のシステムが販売管理と会計システムに分かれており、これをERPで統合する場合、販売管理システムの得意先マスタと、会計システムの得意先マスタは当然同じ内容でなければなりません。しかし実際には、システムが異なっていると、マスタデータも異なっている例が多くみられます。例えば、同じ得意先でありながら、その親会社と子会社で違うマスタデータを持っていたり、事業部によって与信条件、請求条件などが違っていたりするのです。

 こうした場合、ある得意先に対して、会社全体でどれだけの取り引き額があるのか即座に把握できません。実際、筆者が以前勤めていた企業でも、取り引き先であった某大手自動車会社の方から「御社とは全世界でどれくらいのお取り引き額になりますか?」と質問されて、すぐに回答できず恥ずかしい思いをした、ということがありました。

 会社内でその自動車会社の親会社、子会社、海外関連会社のすべてについて、かなりの時間をかけて調べた結果、把握はできたのですが、回答するタイミングはとっくに逸していました。ちなみに、質問をした自動車会社の方は「あとで社内で調べたら分かった」ということでした。

 「そんなことが分からなくても、それほど問題ないのではないか」と思われるかもしれません。しかし、この“取り引き額”を“原材料”や“部品”に置き換えて考えてみれば、かなり重要なテーマであることが実感できるのではないでしょうか。

 汎用的な原材料や部品の場合、各拠点や工場が、それぞれ必要に応じて独自に購入しており、まったく同じ原材料でありながらまったく違うマスタコードで在庫管理されている、ということがよくあります。特に、コードに意味を持たせて採番ルールを作っている場合には、工場や仕入れ先ごとに枝番で管理するため、コードも異なってしまい、同じものを大量に抱えていても把握できない、というケースが多いものです。いうまでもなく、これらは不良在庫として経営の圧迫要因になります。

 関連するマスタをひも付けて管理するということは、こうした“日ごろ見えないもの”を正しく把握するうえで、とても重要なことなのです。

ERPをより有効に生かすために

 さて、このように、ERPをより有効に使うためには、ERPで扱うデータをあらかじめ整理しておくことが重要です。ERPの新規導入やバージョンアップの際、その手間の多さから、データ整理に使う時間やリソースを後回しにしてしまいがちなものですが、セオリーどおり、そこにしっかりと取り組むことで、今回ご紹介する事例のように、非常に望ましい成果を得ることができます。

事例:製造業D社〜ERPだけでは見えなかった部分も“見える化”に成功〜

 中堅組立加工製造業のD社は、すでに5年以上稼働しているERPシステムのバージョンアップに取り組むこととなった。当初は特にコストを掛けることなく、保守期限が迫っていた古いバージョンを、新しいものに移行するだけの計画であった。

 しかし、このタイミングを、かねてより業務改革の一貫として全社で取り組んできた『全社マスタ統合プロジェクト』の成果を挙げる好機ととらえ、計画を変更した。マスタデータ管理システムを新しく構築するとともに、新バージョンに移行したERPと、その情報を活用するためのBIを連携させることにしたのである。

 これによって、新製品が登場するたびに増え続けてきた膨大な品目マスタや、顧客マスタ・契約情報などの一元管理を実現し、マスタのメンテナンスなどの業務効率向上を図ることが狙いであった。

 『全社マスタ統合プロジェクト』のプロジェクトチームは、さっそく作業に取り掛かった。まず全社マスタについて、各マスタのオーナー部門、マスタの登録・変更を行う部門、そしてマスタの利用者、という区分で整理したところ、マスタデータの管理形態に2つのタイプがあることが分かった。

 1つは購買部門や販売部門など、外部とのやり取りを行う部署でよく使われるマスタ管理である。具体的には、得意先の名寄せや変換、契約履歴などに応じてデータを読み替える、「マスタデータ変換(マスタデータ・コンソリデーション)」を目的とした管理形態であった。

 もう1つは、設計部門、製造部門、アフターサービス部門などでよく使われるマスタ管理である。具体的には、部品や製品の仕様、BOM(部品表)、部品構成などの図面や、それらの使用される階層および、使用履歴など、製造にかかわるデータを管理する「マスタデータ収集(マスタデータ・ストック)」を目的としたものである。

 これを受けて、その後、試行錯誤してバージョンアップしたERPにマスタデータ管理システムを導入・連携させる際、利用目的が異なる2つのシステムに分けることとした。1つ目は「マスタデータ変換システム」である。これについてはパッケージベンダのマスタデータ管理パッケージを採用し、短期間・低コストでの導入に成功した。

 一方で、BOMなどを管理する「マスタデータ収集システム」については、独自のこだわり機能の実現と10年間以上の長期利用を目的にスクラッチ開発で対応した。 この結果、新しいマスタデータ管理システムの導入効果は予想以上のものとなった。

 特に、スクラッチ開発したマスタデータ収集システムは、使い勝手の向上とともに、管理機能に同社独自のこだわりやノウハウを盛り込んだことにより、製造部門とアフターサービス部門での業務効率が飛躍的に向上し、企業の資産である製品データの統合管理に成功した。

 これまでは、製造部門とアフターサービス部門のコミュニケーションがスムーズでなく、補修パーツの手配や修理対応の段取りに時間が掛かっていた。しかし、双方で情報を共有することにより、無駄な確認作業がなくなったのである。例えばアフターサービス部門は、修理に必要なパーツをマスタデータ収集システムから即時に検索し、ERPの在庫情報からその所在を確認、在庫がなければ製造部門に必要なパーツの製造を依頼する、といった効率的なオペレーションが可能となった。

 パッケージベースで導入したマスタデータ変換システムも、購買部門の集中購買に大きく貢献した。これまで、それぞれの拠点や工場で購入していた汎用的な部品の購買を一本化することで、購買コストの削減と取り引き条件の改善に成功したのである。

 さらに副次的効果も享受できた。これまでは製品ごと、拠点・工場ごとに異なる品目コードが割り振られていた部品を、名寄せして把握できるようになったため、製品ごとに無駄に死蔵されていた部品を不良資産として洗い出すことができたのである。

 つまり、従来は品目コードが製品ごとに割り振られていたため、見掛け上は別製品として把握されていたものが、実は代替可能な同等品であると分かり、重複していた在庫について「削減可能」と判断することができたのである。これにより、2割以上の在庫金額の削減に成功した。


ERP導入のセオリーを順守

  ERP導入の本質は、「統合マスタと統合データベースによる全社最適の実現」にあるということは、皆さんもよくご存じの通りです。しかし実際には、ERP導入作業と並行してマスタデータの整理、見直しを行うことになります。その結果、各マスタデータの利用内容や、「どの程度の期間、誰が、どのように使うのか」といったマスタデータのライフサイクルの把握、それに応じたデータ整理などがなおざりになりがちです。

  また、ERPのマスタ管理機能には、マスタデータ間の関係性や変換、階層化といった機能はありません。この点で、マスタデータが未整理なままERPを導入してしまうと、コードに意味を持たせて管理している企業では、同じ品目を複数のコードで別々に管理してしまう、といったことが起こるのです。

 今回の事例は、まさしくそうした点にフォーカスし、「統合マスタと統合データベースによる全社最適の実現」というERP導入の本来の目的に向けて、本腰を入れてじっくりと取り組んだケースといえるでしょう。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ