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» 2008年06月30日 12時00分 公開

“割り切り”がERP再生のコツERPリノベーションのススメ(2)(1/2 ページ)

コストをかけて導入したせっかくのERP。標準機能にアドオン開発を重ねて、ついつい全業務を任せたくなりがちだが、その“思い入れ”こそが判断ミスを招く。ビジネスの環境変化が激しいいま、もっと合理的にERPを使いたい。

[鍋野 敬一郎,@IT]

ERPは“一生の買い物”!?

 ERPは稼働して2、3年もすれば機能が陳腐化して導入効果にも陰りが出てきます。たいていの場合、ERPパッケージの保守サポート期間は5〜10年間程度ですが、欧米の企業ではバージョンアップを3年ごとにきめ細かく行うケースが多いようです。これに対して、日本のERP導入企業は5年以上もバージョンアップをせずに使い続けているケースが大半です。

 これは基幹システムに対する考え方が、欧米と日本では異なるところから来ているようです。日本企業ではERP導入は全社をあげての一大プロジェクトとして位置付ける場合が多く、良いものを長く使い続けようと考えます。ですから、可能な限り妥協せず、きめ細かく作り込んでいく姿勢が見られます。機能や仕様にこだわり、不具合や不足にもきっちりと対処します。

 しかし欧米では、ERPは「道具」という割り切りが強いようで、筆者が勤めていた外資系製造業でも2、3年ごとに新しいバージョンに乗り換えていました。定期的に基幹システムを乗り換えるわけですから、乗り換えるたびに機能や仕様にこだわる必要はありません。使える機能と使えない機能を見極めて、使えない部分にどのように対処するか、乗り換え作業をどうすれば最小化できるか──が乗り換え時の中心的なテーマとなります。システムに対するこだわり方が欧米と日本では違うわけです。

 これも住宅に置き換えて考えると分かりやすいかもしれません。欧米企業のERPに対する考え方は、「生活スタイルや家族構成などの変化を念頭において、定期的に住み替える」という姿勢です。転勤慣れしているサラリーマンのようなもので、引っ越しも予定に折り込み済みですから慌てることはありません。

 一方、日本企業のERPに対する姿勢は、郊外に建て売りの新築一戸建てを購入する感覚です。建て売り住宅ですから規格品なのですが、一戸建てだけに思い入れがあり、内装デザインや設備にこだわりを求めるのです。もちろん欧米企業にもこだわりを持つ会社は多くありますので、一概に言い切ることはできませんが、全体的にはこうした傾向にあります。

 ちなみに、パッケージ利用に慣れている欧米企業では、「最新のバージョンと保守期限ギリギリのバージョンは避ける」という導入ルールを設けているところがあります。最新のバージョンを避けるのは、機能面で優れている反面バグも多いため、不具合によるリスクを回避するためです。保守期限ギリギリのものについては、バージョンアップの期限やそのための費用、要員といったリソース確保に制約が多くなる、という理由によるものです。

10年後も使うために、アドオン開発はしない

 では、ERPのバージョンアップに関する事例を紹介しましょう。バージョンアップに当たって、具体的には何をどう考えるべきなのか、最終的な結論に落ち着くまでの経緯はとても参考になると思います。

事例:製造業B社の悩み〜ERPバージョンアップの理由〜

 製造業B社は稼働して7年経ったERPのバージョンアップに、どのような方針で取り組むべきか悩んでいた。というのも、現行バージョンの保守期限が2年以内に終了し、再度の延長はできないことがベンダから正式に通達されたのである。

 最新バージョンへ移行するとしても、独自の機能を追加開発(アドオン開発)した部分が機能全体の3割以上にも及んでいた。そのプログラム本数は数千本を数える。仕様書の所在も不明であり、再度作り直すのは要員や予算面のみならず、時間的にも難しい。ただ、試行錯誤を繰り返して作り込んできたこともあり、システムの機能や操作性については、パフォーマンスがいまひとつでレスポンスが悪いということを除けば、ユーザーの評判はおおむね良かった。

 こうした中、「現行システムを塩漬けにして、ベンダの保守契約を打ち切り、最大限の延命を図る」という案も含めてさまざまな案を検討し、最終的には2案に絞り込んだ。

 1案は現行システムの標準機能だけを新バージョンに移行し、追加開発したプログラムをこれに合わせて改修する、というものである。リスクが低くユーザーに対する影響も少ないが、膨大な改修コストがかかる。

 2案は新バージョンのERPを徹底的に検証して、その標準機能で実現できるところを採用し、不足する機能については追加開発を極力避けて、これを補完可能なパッケージソフトやASPSaaSで対応しようというものである。そうしたパッケージやサービスを探し出せなければ、システム化の対象範囲外として、業務見直しや人手による対応に切り替える。

 当初は1案が現実的と思われたが、その場合、5〜7年程度でまた同じ問題を抱えることになる。そこで2案に修正を加えたものを最終案とした。

 ポイントは、「システム化する対象業務の最低耐用年数を決める」と、最終案の冒頭に明記したことである。つまりシステム稼働のライフサイクルを前提に、ERPを適用する業務と適用しない業務を切り分ける、という区分を決めた形である。

 具体的には、業務の耐用年数が10年未満の場合にはERPを適用した。それもERP標準機能を積極的に採用し、逆に標準機能で対応できない業務の場合、機能の追加変更をせず、その業務をERP対象外とした。この結果、ERP適用対象は会計、販売、購買、生産、在庫、物流、人事などとなった。

 一方、耐用年数が10年を超えると予想される業務には、最初からERPを適用せず、独自仕様の個別システムを開発することとした。この結果、部品表や図面データなど、あらゆる製品データの管理やメンテナンスサービス、品質管理、顧客情報管理などはERP以外の手段で実現することとなった。具体的には、外部システムとしてスクラッチ開発をしたり、ASP/SaaSなどで対応することとし、原則としてERPのAPIを利用してインターフェイスを整える仕様とした。

 さらに、複数のアーキテクチャが混在することによる無駄を最小限に抑えるために、中長期的なシステム基盤──すなわちOS、RDBMSミドルウェア、開発環境などをすべて統一することしした。こうしてB社のERPバージョンアップは完成したのである。


一時しのぎの“リフォーム”より、抜本的な“リノベーション”を

 ERP導入企業が必ず一度は直面する課題が、こうした保守期限切れによるバージョンアップの問題です。必要最低限の修繕で乗り切る“リフォーム”にとどめるのか、基本性能から抜本的に見直して中長期的な利用を目指す“リノベーション”を決断するのか、目的や状況によって判断が分かれるところです。

 しかし、経営戦略やビジネス環境の変化に柔軟に対応するIT基盤として、ERPを最大限活用するためには、課題を先送りするようなリフォームよりも、積極的な攻めの姿勢でERPをリノベーション(再生)することをお勧めしたいと思います。次のページではそのポイントを紹介しましょう。

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