では、ERPリノベーションの方法を考えてみましょう。具体的な手順としては、大きく分けて4つのレベルにフォーカスすることができます。
中でも最も重要であり、第1に着手すべきことは、中長期的な視野でシステム戦略を考えることです。具体的には、企業の「中期事業計画」に対応する形で「中期IT戦略」を策定するところから始めます。
次に、中期IT戦略を支えるコアアプリとなるERPを本当にバージョンアップすべきか、バージョンアップすらなら、どのタイミングで行うのが最適なのか、ERPパッケージベンダがアナウンスしているロードマップから想定します。ポイントは最新のバージョンを採用するべきかどうかです。先にも述べた通り、最新バージョンは高機能ですが、バグなど品質面のリスクが必ずあります。リスクに見合うだけのメリットがあると判断すれば採用しても良いと思いますが、筆者の経験ではリリースされてから最低でも1年間程度は様子を見ることをお勧めします。
次はERPと連携して、その機能を拡張するための補完アプリを検討します。拡張・補完アプリとしてはCRM、SCM、PLMといったパッケージや、ASP/SaaSのアプリケーションをベースに考えます。
そして最後に、パッケージなどでは実現できない独自要件を満たすアプリケーションを検討します。これは品質管理やメンテナンスサービス、マスタデータ管理やR&D(研究開発)など、その企業が他社と差別化を図っているこだわりの業務に対応するシステムなので「戦略アプリ」と呼ぶことができます。
戦略アプリは、その企業のノウハウや経験などを集約するシステムですから、パッケージを使うのではなく、スクラッチ開発による独自仕様のシステムを開発するケースが多いようです。
さて、以上でERPリノベーションの手順は理解できたと思います。ただ、リノベーションを真に成功させるためには、同時に配慮しておくべきことがあります。それはビジネスプロセスと、システムで提供されるサービスの粒度がシンクロしていることです。
従来型のERP導入では、ビジネスプロセスに従ってERPの標準機能を適用し、不足する機能はERP上にアドオン開発してこれを補っていました。つまり、ERPの上にすべてのビジネスプロセスを乗せるようなシステムを開発していたことになります。
そのためビジネスプロセスを変更した場合、ERPをその都度改修して対応しなければなりませんでした。これではビジネスプロセスの変更に対して、柔軟かつ迅速なシステム対応を効率的に行うことは難しくなります。
では、どうするべきなのでしょうか。まずビジネスプロセスを可視化して、業務サービスレベルで切り分け、その要件ごとに対応するシステム(アプリケーション)を配置すればいいのです。業務サービス間の連携については、APIなどで連携可能なアプリケーション・サービスの範囲内で管理するようにします。
これによって、ビジネスプロセスを業務サービス単位で認識できるだけではなく、プロセスを変更しても、システムが提供できる代替のアプリケーション・サービスをイメージしやすくなります。
考え方としては、「経営層が求めるビジネスプロセスの変化に伴う、システムの柔軟かつ迅速な対応」──すなわち、IT業界のトレンドであるSOA(サービス指向アーキテクチャ)ということができます。ERPリノベーションのポイントは、ビジネスプロセスの最適化を意識した、SOAの実現にあるともいえます。
前回はフロントシステムからERPを見直すというお話しをしましたが、これはフロントシステムの見直しが最も即効性があり、効果が見えやすいためです。これ以外の見直し領域としては、アプリケーション領域、ミドルウェア領域、プラットフォーム領域があります。見直しに必要な費用や期間、難易度などはそれぞれ大きく異なりますが、ERPとはそうしたさまざまな視点でリノベーションを検討することができるのです。
▼鍋野 敬一郎(なべの けいいちろう)
1989年に同志社大学工学部化学工学科(生化学研究室)卒業後、米国大手総合化学会社デュポン社の日本法人へ入社。農業用製品事業部に所属し事業部のマーケティング・広報を担当。1998年にERPベンダ最大手SAP社の日本法人SAPジャパンに転職し、マーケティング担当、広報担当、プリセールスコンサルタントを経験。アライアンス本部にて担当マネージャーとしてmySAP All-in-Oneソリューション(ERP導入テンプレート)を立ち上げた。2003年にSAPジャパンを退社し、現在はコンサルタントとしてERPの導入支援・提案活動に従事する。またERPやBPM、CPMなどのマーケティングやセミナー活動を行い、最近ではテクノブレーン株式会社が主催するキャリアラボラトリーでIT関連のセミナー講師も務める。
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