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» 2008年08月26日 12時00分 公開

Web 2.0マーケティング・イノベーション(4):“きずなを結ぶ”新たな手法「エンゲージメント」 (1/2)

広告という情報の送り手側と受け手側に認識のズレが生じているいま、顧客との“きずな”を築く「エンゲージメント」という概念が注目されている。果たして関係構築の新しい形となり得るのだろうか? その現況を紹介する。

[森田進,ストラテジック・リサーチ]

企業と消費者の関係が変化

 テレビCMや新聞広告に対する信頼感の低下が指摘されるようになって久しい。インターネットの普及は、消費者が受け取る情報量の増大、目の肥えた消費者の誕生、ライフスタイルの多様化などをもたらした。こうした複合的な要因により、15秒のテレビCMや雑誌の広告ページなど、単に露出(expose)するだけの一方通行な広告がすでに限界に達していることは明らかだ。

 消費者にとっては商品を購買するための決定要因が減少し、企業スポンサーにとっては広告投資効果が低減している。これは客観的な調査データでも明らかになっている。一方で、PC、クルマ、リゾート物件といった高額商品であっても、実際にその商品・商材を現場で見たり触れたりすることなく、「評判」や「ブランド」を信頼して購入に踏み切る消費者層も確実に増加している。

 こうした状況をひとことでいえば、「広告を通した企業と消費者との関係に、変化の兆候が見られる」ということだろう。もっといえば、メディアを通した情報提供側と受信側の認識に、ズレが生じているのである。Webを通した「コミュニケーション」や「アウェアネス(認知)」の在り方が、マーケティングや経営にかかわる多くの人々の関心を呼ぶようになったのも、こうした動きが背景となっている。

 さて、そうした中、広告の世界では、エンゲージメント(注1)、すなわち、“きずな”とも呼ぶべき良質で深い関係を顧客と構築することを目的に、企業・商品に対する愛着など、感情的な影響を重視したアプローチが定着しつつある。企業という枠組みを越え、どの分野にも応用できるキーコンセプトになる可能性を秘めたものとして、いま大いに注目を集めている。

顧客との深い関係を築く「エンゲージメント」という概念

 このエンゲージメントで追及するのは、単なる関係構築ではない。“婚約”をエンゲージメントと呼ぶこともあるように、消費者との“きずなを深める”ことが目的となる。

 具体的には、商品や商品属性、PR番組、誘導コンテンツ、ブランドなどに対する、消費者の積極的な関与や行動を探り、顧客・ターゲットと深く長期的な関係を築くための手がかりとする。

 これまでもマーケティング業界では“顧客エンゲージメント”といった表現が使われることがあった。これは「特定のコンテンツや商品・ブランドに対する好感やロイヤルティを抱かせる」といった意味合いで使われていた。

 だが、Web 2.0やソーシャルマーケティングの流れとシンクロして以降、エンゲージメントの概念は大きく拡大した。商品・サービスの開発、告知、評価、改善といった各プロセスで生じるさまざまな課題に対して、Webを通して、消費者の積極的な関与を求めるようになったのである。

 つまり、Webという仕掛けによって、消費者はマス媒体による情報を受信するだけの「顧客」という次元から、さらに1歩踏み込んで、あたかも商品やサービスの共同構築者、ブランドの共同所有者で あるかのようにふるまう時代が来ようとしているのである。


注1: エンゲージメント(engagement)という語は本来、「約束」「誓約」「歯車などが連結・かみ合った状態」などのことを指すが、経営やマネジメントの世界ではさらに特別な意味が与えられている。人材や顧客・パートナーを理解しようという場合に、何らかの意図や愛情・愛着を持って誰か/何かにかかわることで、より自発的な行動を促し、仲間を信頼し合う気持ちを醸成することで、より高い業績が上げられる、という考え方のことである。
 これは従来の社員意識調査や社員満足度という、統計的・定量的な手法を超える考え方であり、会社に対する愛着心という目に見えないコミュニケーションを重視するものである。暗黙のうちにメッセージを与えたり、モチベーションを与えたりするのは、実はこうした目に見えないところで交わされるコミュニケーションなのであろう。
 すでに一部の欧米企業では、「従業員エンゲージメント」や「顧客エンゲージメント」というコンセプトを、経営課題における優先的なポリシーに据え、業務に取り組むケースが増えている。また、組織や人材管理以外では、CSRやISOなど、多様なステークホルダーが関与するマネジメント品質の継続的向上の取り組みにおいてもエンゲージメントが重視されつつあり、「ステークホルダー・エンゲージメント」というコンセプトも定着しつつある。


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