そして、次のステージへの旅立ち：目指せ！シスアドの達人−第2部 飛躍編（28）（2/5 ページ）

[山中吉明（シスアド達人倶楽部），＠IT]

坂口が乗り越えなければならないもの

西田　「それと、後1つ、話しておきたいことがある」

坂口　「何でしょうか？」

西田　「マキシムの豊若だが……」

　坂口は、先ほどの松嶋からの留守電メッセージのことを思い出し、胸騒ぎがした。

西田　「豊若にも新会社のプロジェクトに参画してもらいたかったのだが、それが叶わなくなった。残念だが、彼とはもう一緒に仕事ができないことになった」

坂口　「それはなぜですか？ 豊若さんがいなければ、新システムのスムーズなリリースは難しかったのではないでしょうか。新しい物流会社を立ち上げるのであれば、尚更、豊若さんの力が必要なのではないでしょうか」

西田　「うむ、ワシも同感だ。しかしな、次のプロジェクトに豊若を参画させることは、豊若にとっても、ワシらにとってもベストな選択ではないのだ」

坂口　「なぜですか？ なぜベストではないのですか？」

西田　「坂口、君のやるべきことは、豊若の後ろ姿を追いかけることではない。これからは、自らの判断で進んでいくのだ。ワシはそれができると見込んで今回の人事を決めたのだ」

　刺激の強い話が続いて、坂口が混乱している様子が西田には見て取れた。

西田　「（混乱するのは無理もなかろう……。だがなぁ坂口、ここがまた1つ成長するチャンスなのだぞ）」

　そう思いながら西田は、赤坂での布袋社長との会談の数日後、豊若から折り返しの連絡があり、話をしたことを思い起こし、慙愧の念を抱いていた。

豊若　「西田さん、先日はお電話をいただいたのに、出ることができず申し訳ございませんでした。少しの間、日本を離れていたものですから」

西田　「豊若くん、今回は本当によくやってくれた。これからも力を貸してほしいと思っている。だがな、この間、ホテイビールの社長から君の話を聞いて……」

豊若　「はい、そのことなら存じております。ご心配をおかけして申し訳ございません。でも、西田さんにはこれ以上ご迷惑をおかけしません。私はマキシムを辞めます」

西田　「何をいうのだ、君が辞めることはない……。豊若くん、今回のことはワシの方でも少し調べさせてもらった。佐藤が余計なことをホテイビールに吹き込んだようだ。本当にすまん。ワシに償いと恩返しをさせてくれないか」

豊若　「ありがとうございます。ご心配にはおよびません。そのお言葉だけで十分です……。大丈夫ですよ、西田さん、私はもともと今回のプロジェクトが落ち着いたら、マキシムを去るつもりでいました。ですので、少々お騒がせしてしまいましたが、結果的には予定通りの流れです。……それに、坂口も立派になりました。もう私がいる必要はありません」

　豊若が自分の前からいなくなってしまう……。坂口はその不安感に苛まれ、考え込んでしまった。しかし、西田にあれこれと事情を問いかけるより、松嶋が何かを自分に伝えてくれようとしている、それを確認するのが先だと思い立ち、西田にあらためて一礼すると西田の執務室を後にした。これまでの経緯を考えれば、今後のサンドラフトのIT戦略において、豊若のコンサルとしての続投は当然と坂口は考えていた。

　豊若に何があったのか……坂口は早速松嶋に電話をかけた。

坂口　「もしもし、松嶋さん？ 坂口です」

松嶋　「ああ、坂口くん、よかった連絡が取れて。豊若さんが……。豊若さんがマキシムを辞めてアメリカに行っちゃうの……」

坂口　「ええっ！ いつですか!?」

松嶋　「やっぱり、知らなかったのね……。いま、ちょうど成田に向かっていると思う」

坂口　「そんな急に……。何時、何時の飛行機ですか!?」

松嶋　「18時半のノースウエスト航空12便、デトロイト行きよ……。私からお願いする話じゃないかもしれないけれど、まだ間に合うわ、坂口くん、仕事の都合がつけられるなら、豊若さんに会いに行って！」

　坂口は腕時計を見た。16時。

　傍らで忙しそうにしている伊東が視界に入ったが、坂口は即決した。

坂口　「分かりました！ でも、なぜ豊若さんは……」

松嶋　「……」

　松嶋は坂口と連絡が取れた安堵感と豊若の境遇への思いから、胸にこみ上げるものがあって思わず言葉を詰まらせた。

坂口　「松嶋さん。……大丈夫？」

松嶋　「……うん。……大丈夫。時間ないね、とにかく早く成田に向かって」

坂口　「実は、西田さんからさっき気になる話を聞いたんだ。豊若さんの身の回りに何かあったの？」

松嶋　「……私が知っていることを、この後メールにして送るわ。成田に着くまでに目を通して」

坂口　「分かりました」

松嶋　「それじゃ、気を付けて行ってきてね。豊若さんは、坂口くんに会いたいと思っているはずよ」

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