マルチメディアでの一貫性ある対応がCS向上のカギスマホ時代、SIPの可能性を再考する(2)(2/2 ページ)

» 2011年09月01日 12時00分 公開
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SIP vs H.323&CTI

 さて、以上のことを踏まえて、SIPの効能を考えみたい。前述のように、コンタクトセンターの運営とは、「削減するものと向上させるものを天秤に掛けつつ、“芸術的とも思える手法やノウハウ”を生かしながら、ITイノベーションを駆使して、企業が掲げる目標を達成すること」だ。マルチメディア化が必要だとしても、「削減するものと向上させるものを天秤に掛ける」ことを忘れては意味がない。マルチメディア化する複数の手段の中で、SIPに注目すべき理由はまさにこの点にある。それは同じくマルチメディア化が可能な他のテクノロジと比較してみると分かりやすい。

 まず第1回でも紹介したプロトコル、H.323だが、こちらもビデオや位置情報(GPS)などを利用するマルチメディア対応環境を実現できる。だが初期開発費用と、一度構築したシステムの維持費用が莫大になってしまうケースが多い。

 その最大の理由は、従来のH.323がネットワークの中心にある交換機で各メディアを集中制御することに対して、SIPを利用したマルチメディア化はその仕様上、端末側で新しいマルチメディア・サービスを任意に追加できる点にある。ビデオ通信を例にすると、「専用ビデオ回線」と「インターネット利用で提供されるビデオ通信」の違いに相当する。今後普及する新しいメディア・サービスごとに、専用回線と固有プロトコルを利用するのはもはやナンセンスだろう。

 その点、SIPはオープンかつシンプルなプロトコル。従来のプロトコルとは異なり、その誕生時からビデオ、プレゼンス、位置情報などのメディアや情報、そしてまだ普及していないメディアさえも扱うことを念頭に置いて開発されている。つまり今後、コミュニケーション端末の進化に伴い、扱われるメディアが進化したり、連携させたりする必要が生じたとしても、SIPなら低コストで柔軟に対応しやすいメリットがあるのだ。

 CTI (Computer Telephone Integration)を利用してマルチメディア化することもできる。だが、CTIは音声情報(RTP)と、それに関連するアプリケーション情報(IP)を別々に管理する仕組みのため、システム開発と将来的な維持費を考えると、共有する情報の種類が増えれば増えるほど現実的ではない。

 それに対してSIPのマルチメディア化は、SIPヘッダーの利用により、音声を含むメディアとアプリケーション連携に必要な情報を、個別に管理する必要がなくなる。よって、SIPは将来のメディア拡張と運用コスト削減の点で優れたプロトコルだと言えるのである。

 また、CTIを使っているコンタクトセンターの場合、公衆網(PSTN)とインターネット網(IP)の情報を関連付けることで、「顧客からの問い合わせがあると、オペレータの管理画面上に顧客情報(属性情報やコンクタト履歴、購買履歴など)をポップアップさせる機能」を確保している例が多い。そうした情報を把握しながら対応すれば、顧客満足度向上だけではなく、関連商品の販売機会を増やすことにもつながるからだ。その点、SIPを基盤としたコンタクトセンターでは、ポップアップ機能も低コストで実装・運用できるメリットがある。

 さらに、人件費の削減に寄与する点も見逃せない。現在、人件費が安い一部の新興国を除いて、コンタクトセンターの運営コストはオペレータの人件費が大半とされている。職場環境ややりがいの問題により、オペレータの離職率や勤怠率が芳しくなく、新人の採用・教育コストがかさんでしまいがちなためだ。そこで対応品質とオペレータの働きやすさ、コスト削減という課題を解決するために、オペレータの在宅勤務が採用されつつあるのだが、SIPは在宅でもマルチメディア環境を低コストで構築しやすいのである。

 すなわち、マルチメディア対応というトレンドに対応しながら、従来からコンタクトセンターが求めてきた基本要件も全て低コストで満たせる――この点がSIPの最大のメリットなのだ。

マルチメディア対応が求められる、もう1つの理由

 ところで、マルチメディア対応には、顧客満足度向上の他にもう1つ、大きな意義が存在する。それは企業のブランディングだ。

 近年、ソーシャルメディアの台頭により、企業と消費者の力関係は逆転したと言ってもいい。TwitterやSNS、YouTubeなどを通じたコミュニケーションが企業ブランドに多大な影響を及ぼすようになっている。数年前、YouTubeにアップされた「United Breaks Guitars」という曲が全米で話題になったのはご存じだろうか。ミュージシャンが飛行機で米国内を移動中、荷物扱いとしていたギターを壊されて激怒し、曲にしたのだ。これがその航空会社のブランドイメージに多大な影響を与えることになった。

 コンタクトセンターに苦情の連絡をしてくるクレーマーは、少数とはいえ以前からいた。しかし今後、企業が最も気を配らなくてはいけないのは、そうした“Loud minority”よりも、ソーシャルネットワーク上で静かに、しかし甚大な影響をプランディングに及ぼす“Quiet majority”だろう。従って、今後コンタクトセンターがブランディングに寄与するためには、そうしたソーシャルメディア上のコミュニケーションを察知し、対応することが求められる(「Avaya Social Media Manager」や「Cisco SocialMiner」、また「Genesys Social Engagement」などがソーシャルメディアに対応するソリューションの一例だ)。

 SIPはここでもその威力を発揮する。前述のように、SIPをコンタクトセンター基盤にすると、新しいサービスの構築費用を軽減できるとともに、運用も簡素化できる。従って、ソーシャルネットワーク上でつぶやかれた苦情をいち早く察知し、それに対してソーシャルネットワーク上で対応することもできるし、連絡先が特定できる場合には、従来通り電話や電子メールで対応することも可能だ。

 各メディアのセッションを効率的かつ一元的にコントロールできるSIPコンタクトセンターは、そうした複数のメディアを連携させた“間口は複数あっても顧客対応の在り方は一貫している”――いわば企業の顔を明確化するためのコミュニケーション基盤として、最適な特性を備えているのだ。


 今後、マルチメディア対応モバイル端末の普及が進むにつれて、コンタクトセンターもマルチメディア化を推進しなければ、社会のトレンドや人々のニーズに取り残されるであろうことは必至だ。ともすれば、販売チャネルを用意できないことから機会損失にもつながりかねない。これをコストとのバランスを考えながらどう実現するか――その1つの答えがSIPであり、現時点で最も現実的な回答と言えるだろう。

 参考までに、2011年現在、日本国内で販売されているS IPベースの主要なコンタクトセンター・ソリューションを列挙してみた。各製品ともコンセプトや機能は異なるが、SIPのメリットをどのような形で享受できるのか、製品機能を知ると、より具体的にイメージしやすくなるはずだ。

  • Avaya Aura Contact Center(日本アバイア)
  • IPコンタクトセンター(NEC)
  • Genesys CIM Platform(ジェネシス・ジャパン)
  • Cisco Unified Contact Center Enterprise(シスコシステムズ)
  • Multi Call Distributor(富士通)
  • CTStage(沖電気)

 次回は、「オフィス内、あるいは企業間コラボレーションの基盤」としてのSIPのメリットを紹介する。

著者紹介

▼著者名 平野 淳(ひらの あつし)

日本アバイア ソリューションマーケティング部長。1989年に渡米し、数学(BS)、応用統計学(MS)をジョージア大学で取得後、1996年シリコンバレーのCRMソフトウェア会社にソフトウェア開発者として入社。その後M&Aを経て、2001年アバイア設立当時から同社で勤務。2004年に日本アバイアへ移籍/帰国しAPACコンタクトセンター製品担当者に就任。CRM Demo&ConferenceやInteropなどで数多く公演している。


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