マーケティングの本質は“双方向性”にありWeb 2.0マーケティング・イノベーション(8)(1/2 ページ)

「Webマーケティング」といっても、マーケティングの本質が変わるわけではない。Webの世界にそれをどう最適化するかというだけだ。ただそれ以前に「マーケティング」自体を誤解してはいないだろうか。

» 2012年10月10日 21時44分 公開
[森田進,ストラテジック・リサーチ]

 好、不況にかかわらず、市場は年々成熟、変化を遂げ、顧客ニーズも多様化している。さらに現在は世界的な不況が重なり、市場競争はよりいっそう厳しいものとなった。

 こうした中、少しでも収益を伸ばそうと“顧客行動理解に基づいたWebマーケティング手法”を考えるとき、効果を急ぐあまり、ついついWebマーケティングの具体的手法だけに注目してしまいがちなものだ。だが、これではWebを単なる「短期的な商戦における情報発信やプロモーションの一手段」とみなすようなものであり、結果として、はなはだ狭く、陳腐なWebの利用法を導き出すだけに終わってしまう。

 ではこうした時代において、「顧客行動理解に基づいたWebマーケティング手法」を正しく検討するには、どうアプローチすべきなのだろうか。それを考えるために、「顧客行動理解」というものをあらためて見直してみたい。

顧客行動は計算や分析では理解できない?

 まず確認したいのは、「顧客行動を、どのようなものと考えるべきか?」ということである。少なくとも統計で把握できるほど単純なものではないことは分かるだろう。

 例えば マーケティングリサーチである。ご存じのとおり、これほど市場が成熟、変化を遂げ、顧客ニーズも多様化しているいま、従来の手法によるマーケティングリサーチだけでは顧客行動を理解するには至らない場合が多い。アンケートやヒアリング調査、インタビューによって顧客の意見を吸い上げ、統計的に分析し、それらを基に、理詰めで製品開発やマーケティングのプランニングを推し進めても、必ずしも有効な策が構築できるとは限らないのである。

 ジャック・トラウト著『無敵のマーケティング──最強の戦略』(阪急コミュニケーションズ/2004年11月刊行)では、次のような事例が紹介されている。デュポンがスーパーの店舗を訪れた客5000人を対象に、店舗入口では「これから何を買うつもりか」、店舗出口では「実際に何を買ったのか」を聞くヒアリング調査を行ったところ、入口では「買うつもり」と答えていた商品のうち、実際に購買行動に結び付いたものは全体の30%程度であったという。

 この例から分かるように、質問に対する顧客の応答はあくまであいまいな判断でしかない。ただ、これは顧客が「いい加減に回答している」ということではまったくない。店の入り口の段階で、顧客が想定していることはあくまで“かりそめのプラン”に過ぎず、購買という最終的な判断は、気に入った商品が目に付いた、販売価格が下がっていたなど、店舗の中でたまたま遭遇したあらゆる要素が混合した結果なのである。

 現実の世界では、顧客の意思が行動として現れるまでに、差異が生じることは、ある意味、当たり前といえる。もっといえば、店舗の入り口で、来店目的にまだあいまいさを残しているような段階で、「何を買うか」聞き出そうとすること自体、「人間」という、本来深く分析すべき対象を「消費者」という型枠に入れ、細かいことは無視してしまおう、というスタンスにほかならない。マーケティングリサーチを否定しているわけではなく、そうした認識を常に持っておくことが必要だといいたいのである。

 すなわち、「顧客行動」とはとても複雑かつあいまいなものであり、アンケートやその分析だけで理解できるようなものではない。考え方も感じ方も1人1人が異なる、非常に複雑な「人間の行動」であることを忘れてはならないのである。

聞くだけでも、提案するだけでも駄目

 ところで、大量生産・大量消費社会が終えんを迎えつつあった1970年ごろから、「プロダクトアウトからマーケットインへ転換すべき」といった指摘がなされるようになった。市場が飽和し「出せば売れる」状況ではなくなった以上、顧客の声に耳を傾けるべきだとする考え方である。

 しかし以上のように、人間とは“複雑かつあいまい”なものである以上、その声をうのみにして統計処理に掛け、顧客動向を推測するようなやり方は必ずしも有効とはいえない。だが、売り上げを伸ばすという命題を抱えている企業としては、何とかして顧客に受け入れられる商品・サービスを開発しなければならない。

 この点で、顧客行動が“複雑かつあいまい”であり、「必ずしも自分が欲しいものを明確に知っているわけでもない」なら、やはり“新しい価値”を提案する──特に、それまで市場に存在しなかったような、新しい製品やサービスに関しては──ことも大切なのではないか、という考え方も根強いのである。確かに聞くことが当てにできないなら、こちらから発信すべきだという考え方は理にかなっている。

 しかし、企業が「これなら受け入れられるのではないか」と考え、提案したところで、それが必ずしも顧客に受け入れられるとは限らない。顧客の支持を得られる確率は、むしろ“聞いて合わせる”方法よりも低いといえるだろう。

 顧客の声を聞くだけでは駄目、企業側から提案するだけでも駄目──では、“複雑かつあいまい”な顧客の行動を理解し、その支持を得るためには、いったいどうすればよいのだろう? そう、そもそもプロダクトアウトとマーケットインはどちらがよいといった問題ではない。そのこと自体が回答となるのである。

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