中国オフショア開発の成功と失敗の実態:オフショア開発時代の「開発コーディネータ」(2)(4/4 ページ)
中国でのオフショア開発を成功させるためには、「『何を』達成すべきかという事業目的を明確にすることだ」と前回述べた。今回は実際に中国で体験した失敗例や、事例を研究して得た教訓などを紹介する。
お刺し身文化と麻婆豆腐文化
先日、都内のある中国人社長から聞いた、日中両国の文化の違いをよく表す例え話を紹介します。
日本式文化:「お刺し身文化」
日本はお刺し身文化です。
お刺し身とは、説明するまでもなく生魚の切り身ですが、この調理法は恐らく何千年も前から日本に存在していたでしょう。21世紀になった現代でも、北海道から沖縄まで全国どこであっても、基本的な味や形は変わりません。もちろん海外であっても、魚の種類は違えどもお刺し身は依然としてお刺し身の味がします。お刺し身の一部は、芸術の域にまで達しています。
中国文化:「麻婆豆腐文化」
一方、中国は麻婆豆腐文化です。
本場四川省では想像を絶するほど辛いのは有名な話。ところが、北京では味が随分まろやかになりますし、東京ではまったく味がしないと不満を漏らす中国人がいるほど。つまり、麻婆豆腐は地域、あるいはその土地の人々の好みに合わせて辛さがまったく異なります。
面白いことに、麻婆豆腐は偶然の産物だとする説が有力です(麻婆豆腐の起源には諸説あり)。さらに、中国四川省では豆腐ですら偶然から生まれたという話を聞いたことがあります。なんとも「いいかげん」な料理です。
このたとえ話には、中国オフショア開発の重要な鍵が示唆されています。規律・過程・美徳を重んじる日本人、臨機応変を好み結果重視の中国人。麻婆豆腐文化の中国は、ずさんな品質管理を露呈する一方で、日本でも難しいロケット打ち上げに成功するほどの高度な技術力を持ちます。目的を理解し、視覚化された適切な目標があれば、ソフトウェア分野でも正確で高度な仕事を遂行するでしょう。
読者の中には、前半に紹介した失敗事例と似たような体験をされた方が大勢いるでしょう。でも、失敗を経験したからといって、中国ベンダは品質意識に乏しいソフトウェア開発後進国だと判断するのは感心できません。それは、私たちのお刺し身文化的な均一した価値観にすぎないのです。
大切なのは、日本と中国が同じ土俵で議論することです。誰でも分かる客観的なデータを用意して、納得のいくまで議論します。ソフトウェア分野のプロジェクトマネジメントにおいては日本に一日の長があるので、必要なことは遠慮せずにどんどん要求しましょう。出来上がった最終結果だけではなく、開発プロセスが正しく実施されているかどうかの途中確認はオフショア開発の成功を左右する重要な鍵となります。
このような相互確認を怠らなければ、過去の多くの失敗を未然に防げたに違いありません。今後の皆さまの検討をお祈り申し上げます。
profile
幸地 司(こうち つかさ)
アイコーチ有限会社 代表取締役
沖縄生まれ。九州大学大学院修了。株式会社リコーで画像技術の研究開発に従事、中国系ベンチャー企業のコンサルティング部門マネージャ職を経て、2003年にアイコーチ有限会社を設立。日本唯一の中国オフショア開発専門コンサルタントとして、ベンダや顧客企業の戦略策定段階から中国プロジェクトに参画。技術力に裏付けられた実践指導もさることながら、言葉や文化の違いを吸収してプロジェクト全体を最適化する調整手腕にも定評あり。日刊メールマガジン「中国ビジネス入門 〜失敗しない対中交渉〜」や社長ブログの執筆を手がける傍ら、首都圏を中心にセミナー活動をこなす。
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