今回は、中国企業の信頼を勝ち取るために必要なオフショア開発コーディネータの条件を考察します。
オフショア開発コーディネータは、自分がかかわるすべてのプロジェクトにおいて、あるべき理想的な姿を頭に思い描けなければいけません。多くの日本企業では、プロジェクトマネージャの間でオフショア開発の経験則が十分に共有されていないため、オフショア開発コーディネータの担う役割が大切になるからです。
第4回記事では日本企業が中国に嫌われる理由の1つとして、「木を見て森を見ず」的な発注形態があることを述べました。本連載では、このような発注形態に代表される従来型のアプローチを日本型開発アプローチと称して、日本側の態度を改善するよう強く求めています。オフショア開発において日本型開発アプローチはさまざまな弊害をもたらしますが、それらは以下のような中国企業の声に象徴されます。
「われわれは何を開発すればよいのか、仕様を説明されてもさっぱり分からない」
「日本企業の担当者はシステムの全体像を知らないうえに、業務知識も乏しい」
中国側の不満をより深く理解するために、「絶対に完成しないジグソーパズルの法則」を使って、あるべき姿を知っていることの大切さを説明します。
あなたの目の前に、十分に大きなジグソーパズルが置かれています。このジグソーパズルに私がある細工を施すと、あなたはそのジグソーパズルを絶対に完成できなくなります。「ある細工」とは、いったいどんなことでしょうか。念のために前置きすると、パズルの一部を「隠すこと」でも「変形させる」ことでもありません。
正解は、あなたに「ジグソーパズルの完成図を見せない」ことです。
……。
「そんなバカな!」
「いくらなんでも、それはルール違反だ!!」
そう感じたあなたの感覚は正常です。しかし私たちは、これを悪質なジョークだと笑い飛ばせません。なぜなら、「絶対に完成しないジグソーパズルの法則」とまったく同じ現象がオフショア開発で頻繁に起きていることを、うすうす自覚しているからです。
システムの規模が大きくなると、全体を適切なサブシステムに分割して、さらにその一部の開発をオフショアのベンダに委託します。前出のジグソーパズルに例えると、ある領域を取り出して「その領域だけを組み立てるように」と指示するようなものです。
ところが、日本企業に痛い目に遭わされた中国側の意見はこうです。日本企業は、発注時にジグソーパズルの全体の完成図を見せてくれません。しかも、発注対象のサブシステムの完成図(仕様書)ですら「不完全」な状態がほとんどだと!
こうした「あるべき姿」の欠如は、仕様書の問題だけではなく、開発アプローチの認識違いをも引き起こします。
オフショア開発でトラブルが発生したとき、日本企業は自らの問題を棚に上げて一方的に中国側を非難しがちですが、事前にジグソーパズルの完成図を提示していたかどうかを自問すべきでしょう。そもそも、「社内の誰も完成図を知らない」といった状態かもしれません。これは笑い話では済まされません。オフショア開発で事前に提示すべき「パズルの完成図」のうち、特に日本企業が見落としがちな項目を列挙します。
プロジェクト全体像
日本側のやり方
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