「AIエージェント同士が会話をして問題を解決」 SAPが目指す生成AI活用の未来

SAP Japanは、SAP本社が2024年10月に開催したテクノロジーイベント「SAP TechEd」に合わせ、発表内容を伝える報道向け説明会をオンライン開催した。SAPが目指す生成AIの未来とは。

» 2024年10月23日 07時00分 公開
[指田昌夫ITmedia]

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 SAPジャパンは、SAP本社が2024年10月に開催したテクノロジーイベント「SAP TechEd」に合わせ、発表内容を伝える報道向け説明会をオンライン開催した。

 SAPが描く2025年以降の技術開発のロードマップを示した発表会には、SAPアジアパシフィックおよび日本の事業を統括するプレジデントのポール・マリオット氏、SAP Business Technology Platform担当のマイケル・アメリング氏(エグゼクティブバイスプレジデント兼最高製品責任者)の2人が登壇した。

 AIエージェント同士が会話をして問題を解決するという、SAPが目指す生成AIの未来とは。

日本のビジネス課題をAIで解決する

ポール・マリオット氏

 最初にマリオット氏から、日本市場への展望について説明があった。同氏は、日本の労働人口減少に対応するためには、AIの利用が不可欠との認識を示した上で、「日本企業は他の国よりもテクノロジーの導入が遅れているといわれるが、これはむしろチャンスだと思っている。生成AIを生かすことで生産性を大きく向上させ、再び成長軌道に乗せることができる」と語る。

 実際にSAPを導入して成長する日本企業の例として、資生堂や日立ハイテクなどの大手企業、マツモトプレシジョンなどの中堅企業の取り組みについて紹介した。

 「SAPの目的はシンプルで、企業が価値を生み出すまでの時間をできる限り短くすることであり、大企業だけでなく全ての規模の企業に対してSAPのアプリケーションによる成果が挙がっている」とマリオット氏は話した。

マイケル・アメリング氏

 今回のTech Edで発表されたテーマは、「生成AI『Joule』の強化と導入拡大」「大量の業務データを分析するプラットフォームの提供」「SAP開発者へのAIによる支援ツールの拡充」の3点。それぞれの内容について、アメリング氏が説明した。

 まず、SAP独自の生成AIであるJouleだが、リリースから約1年でSAPの全ての製品ポートフォリオに導入され、エンドトゥエンドのビジネスプロセスの約80%をカバーできるようになっているという。

 「PCだけでなく、モバイルアプリケーションにもJouleは組み込まれており、どこにいてもJouleの支援を受けながら業務を進められる環境を提供している。『Microsoft Copilot』とも統合しており、ユーザーはベストなほうを選んで使える」(アメリング氏)

 Jouleの次の段階として、特定の業務分野で利用できるAIエージェントの機能を開発した。当企業が顧客から受けるクレーム管理、財務会計領域の2つのシナリオを想定している。クレーム管理は不正確な請求書、拒否された支払いなどの問題が発生した際にAIエージェントが問題解決を支援し、財務会計領域では請求書処理や支払い、元帳更新の業務自動化をAIエージェントが支援する。

 「自然言語で書かれたドキュメントに関して、AIエージェント同士が会話をして問題を解決できるようになる」(アメリング氏)

SAP開発者をAIで支援する環境が整う

 AIの活用を進める上で不可欠なのが、第2のポイントであるデータの整備だ。SAPはAIのコア部分に「SAP Knowledge Graph」を導入した。大量のデータを高速処理できる「SAP HANA」の利点を損なわず、データを直感で活用できることを目指している。「SAP S/4HANA」のデータベースとアプリケーションとの間にセマンテックレイヤー(データをビジネス的に理解するための変換層)を設け、SAPの開発言語であるABAP、あるいはアプリ開発環境である「SAP fiori」にビジネスでの文脈を加え、質問に答えられるようにする。

 「構造化データ、非構造化データを組み合わせながら、ビジネスで意味のある解決策を導き出せる。これらのツールを活用して、SAP環境が蓄積するデータのパワーを完全に使い切ってほしい」(アメリング氏)

 そして、今回最も多くのトピックが発表されたのが、AI開発者向けの機能強化だ。すでに、生成AIを活用してアプリケーション開発、自動化を進めるローコードツール群である「SAP Build」を発表済みだが、2024年にSAPのERP開発言語であるABAPがSAP Buildに加わった。

 「ABAPのコミュニティーも使えるようになったことで、SAP BuildはSAP開発環境を拡張する真のソリューションとなった」(アメリング氏)

 SAP BuildへのABAPの統合により、例えばJavaScriptとABAPを単一の環境で扱えるようになる。これはオンプレミスだけでなく、パブリッククラウド版を含むクラウド開発環境にも対応する。

 「SAP Buildの中にJouleを含むAIの機能が搭載されており、適用範囲を拡大している。これによって開発者は不明なコードや、タスクの作り方を問い合わせながら、生産性を上げられる。AIという“魔法のつえ”を使って、開発者を支援する機能を大幅に強化した」とアメリング氏は語る。

 また、2025年の第一四半期には、「Joule Studio」も提供予定で、企業が独自の生成AIを開発できるようになる。

 外部企業とのAIパートナーシップの拡大についても、TechEdの基調講演で発表があった。生成AI開発企業であるAnthropicとは、SAPアプリケ−ション内で生成AIを組み込んだ機能の開発を支援する。またMeta、Mistral AIとの連携も強化している。

 「今後SAPは、AIパートナーシップによって顧客にベストなモデルを提供する。連携はこれからも強化され、トータルコストの削減や回答の正確性、ビジネスケースの拡大を支援する」(アメリング氏)

2025年以降、SAP BTPはさらに連携先を拡大

 SAPではERPを中心とした企業ITのあるべき姿として、コアとなるデータ基盤を可能な限りシンプルにし、その周辺にビジネスアプリケーションを配置する「クリーンコア」+「SAP Business Technology Platform」(SAP BTP)を提唱している。そして、この構想をさらに進めるため、SAP BTPに参加するSaaSベンダーの拡大を図っている。

 SAP BTP対応のSaaSは、「SAP Integration Suite」によって接続される。2025年上半期に「Anaplan」「Coupa」「HubSpot」「NetSuite ERP」「Snowflake」用のアダプターが追加されることが発表された。

 「SAPユーザーのうち75%が、すでにSAP Integration Suiteによってサードパーティーのシステムと接続している。SAP、非SAPを問わずビジネスを遂行するためのオーケストレーションをSAP BTPが担うことになる」(アメリング氏)

 大量のデータを多岐にわたるビジネス領域で活用できる環境が整えば、ビジネスの成長に向けた市場と事業の予測にも活用したくなる。SAPでは予測機能も強化する。2025年第二四半期に「SAP Analysis Cloud Compass」をリリースする。

 これは、SAP環境に対してモンテカルロシミュレーション(複数の変動要素を組み合わせてリスクシナリオを作成する予測手法)によるモデリングを提供するツールで、複雑な事業環境下での企業の意思決定を支援する。「モンテカルロシミュレーションによって、スポーツイベントでホットドッグが何本売れるかといった問題や、サプライチェーンの最適化など、あらゆるビジネスシーンで予測シナリオを作成することができる」とアメリング氏は話した。

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