今回は従来と少し趣向を変えて、筆者が5月下旬に訪れたベトナム視察レポートを紹介する。視察で分かったベトナムオフショア開発の現状を解説するほか、中国オフショア開発との違いやお勧め企業などを紹介する。
筆者は5月下旬に、ベトナムへオフショア開発の現状を探るための視察に行ってきました。昨今、ベトナムは設備投資や人件費などが中国よりも安いことから、オフショア開発先として注目されています。しかし、まだまだ日本に届いてくる現地の生の情報が少なく、二の足を踏んでいる企業も多いのではないでしょうか。今回は、少し趣向を変えて、筆者が感じてきたベトナムオフショア開発の現状を紹介したいと思います。
まず、客観的に中国とベトナムのオフショア開発を比較した際の、メリットとデメリットを挙げたいと思います。
まずベトナムの優位性として最初に挙げられるのは、設備投資額や人件費が中国よりもさらに安い点でしょう。これは最大の魅力でもあります。次に、中国と比較して、人材が定着しやすいので人材教育が功を奏していることも挙げられます。
そのほか、日本人や日本式経営に対して好意的である点や、知的財産保護の意識が高い点なども優位点として挙げられるでしょう。特に日本企業にとっては、日本式経営に対して好意的である点は大きいと思います。なぜなら、中国オフショア開発ではこの点で行き違いが発生し、もめることが多いからです。
確かにベトナムでのオフショア開発は、一種の「ブーム」と呼べます。しかし、「いますぐ中国の代わりが務まるほど、成熟しているとは感じられない」というのが筆者の率直な感想です。特に、現場のエンジニアに関しては、人材の数、スキル、経験などは、現状ではまだまだ中国の方が断然上であると感じました。
ベトナムには、CMMレベル5を取得済みであり、なおかつ国内シェア50%以上を押さえているガリバー企業が存在します。その会社とは、ハノイに本社を置くFPTソフトウェアです。
FPTソフトウェアは、ベトナムのトップ企業とはいえ、在籍するエンジニアは400〜500名程度です。同社以外にも、エンジニアを数百名抱えるソフトウェアハウスがベトナム国内に4〜5社は存在します。そのほかにも、欧米系の会社がたくさん進出してきていますが、現状では1000名を超える規模の会社は見当たりませんでした。
つまり、これが現在のベトナムIT業界の実力なのです。
ベトナムには、FPTグループという巨大企業集団があります。FPTソフトウェアは、そこのIT部門が分社化して設立された会社です。1994年に米クリントン政権が実施した開放政策によって、米国企業のベトナム進出が始まりました。FPTは1994年に米IBMの戦略パートナーとなり、1997年にはOracleやMicrosoftの戦略パートナーとなりました。以降、着実な成長路線を歩んできています。
筆者は、2005年5月23日にハノイにあるFPTソフトウェア本社を訪問し、会社概要の説明を受けました。FPTソフトウェアの第一印象は、筆者たち訪問団の予想をはるかに上回るものでした。まさに「感動」の一言に尽きるでしょう。米国流の洗練された雰囲気や会社概要の流れ、資料作り、日本語による説明などが強烈に印象に残っています。
筆者はこれまで、何度も同じような状況下で、オフショアベンダのプレゼンテーションを受けたことがあります。実は筆者は、中国側の企業にも在籍したことがあります。このため、オフショアベンダ側の立場で会社概要を説明した経験も豊富です。そのような立場の筆者にとっても、FPTソフトウェアのプレゼンは魅力的でした。
FPTソフトウェアの日本語コースには150名が在席しているといい、恐らくベトナム最大級でしょう。また、社内研修によって日本語能力試験3級レベルを確保しているほか、日本政府の援助によって日本で半年間から1年間程度の研修を受ける従業員も多くいます。さらに、TV会議や電話会議を多用している点や、品質管理ツールを活用して「仕様書の理解不足」を補っている点などが衝撃的でした。
続く5月27日には、ホーチミンのFPT支社を訪問しました。こちらのオフィスは、さらにサプライズでした。オレンジ、緑、青などが元気よく配色されたカラフルな空間。壁には小学校の学級通信のような、見るだけでワクワクする社内新聞が張られていました。
とにかく、従業員の満足度は非常に高そうです。いまのところ、この会社を辞めたくなる社員はそうはいないでしょう。また、全社レベルでCMMレベル5を取得していることもあり、マネジメントの意識もしっかりしていました。各プロジェクトから、約40項目の評価指標を抽出して、社内中で走っているプロジェクトの進ちょく状況が一目瞭然でした。まさか、ベトナムにこのように卓越したIT企業が存在するとは夢にも思いませんでした。
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