そんな指示じゃできません!中国企業の叫び:オフショア開発時代の「開発コーディネータ」(9)(3/3 ページ)
前回は中国オフショア開発に、元来向いている仕事と向いていない仕事があることを紹介し、それぞれの特徴を説明した。今回は、中国企業の信頼を勝ち取るために必要なオフショア開発コーディネータの条件を紹介するほか、昨今各種メディアで話題になっている中国における反日活動の緊急レポートをお知らせする。
緊急レポート:「中国全土に広まった反日運動、いまのところ日本企業のリスク対策は万全」
本連載で政治経済の話題に深く立ち入るつもりはありませんが、最近の反日運動がオフショア開発に与える影響には興味があります。大半の読者の方は、社内の限られた情報しか入手できないため、先の見えにくい中国情勢に不安を隠し切れないことでしょう。
中国全土に広まった反日運動が中国オフショア開発の現場事情にどのように影響しているのかを調査するため、オフショア開発専門メールマガジンの読者2600名に緊急アンケートを実施しました。
5月の大型連休までは、TVや新聞などのマスコミでは連日のように中国に駐在する日本人が登場して、「会社から外出禁止の通達があった」といった声が報道されていました。その後、中国政府が本腰を入れて反日デモの取り締まりを強化したこともあり、いまではすっかり沈静化した感があります。
アンケート結果を見ると、「対策済み」と「特に影響はない」を合わせると過半数を超えています。あらかじめ、テロや反日デモを予測した現地駐在員の安全マニュアルが規定されているのであれば、「対策済み」や「慎重に見守りたい」といった回答になるのかもしれません。また、悪影響はないという意味で「特に影響はない」と回答された方も多いことでしょう。
「中国で起きている反日運動を冷静に判断していただきたい」こう語るのは、上海市にテストのアウトソーシング会社を持つ倉田克徳氏です。倉田氏は「日本での報道は過熱気味ですが、節度ある行動を取っている限り、現地では身の危険は感じませんでした」と振り返ります。
一連の反日運動によって、多くの日本企業では、中国出張自粛の措置が一時的に取られましたが、中国に駐在する日本人社員を召還させるなどの「重大な」影響は、いまのところありません。2001年アメリカ同時多発テロ事件以降、日本企業のリスク対策は飛躍的に高まったように感じられます。いま一度、あなたの会社のリスク対策マニュアルを確認することをお勧めします。
中国全土で盛り上がった反日運動は、嵐のように過ぎ去ってしまいました。前出のように短期的な影響は小さかったものの、今後まったく不安がないわけではありません。報道によると、反日デモの主役の一部は中国の大学生でした。その結果、中国の大学生の間で「なんとなく日本企業を敬遠する」といった空気が流れるようだと、日本企業がこうむる長期的な損出は計り知れません。
中国オフショア開発に携わる技術者として、私たちは今回の反日運動をどのようにとらえればよいでしょうか。
まず、オフショア開発に積極的な中国企業には、反日感情を持つ社員はまず存在しないことを認識します。筆者を含め、多くの中国ビジネス専門家は、反日運動がオフショア開発業務に与える影響は小さいと予測しています。一連の反日運動に対しては、「過剰反応しない」を合言葉に、これまでと変わらぬ活動を続けていくべきだと考えています。
特に分散拠点で実際に開発に当たる技術者に対しては、日ごろから意識して日中両国の非公式な会話の量を増やし、共通の会話の土俵(コミュニケーション基盤)を固めることを強く推奨します。結局のところ、両国の技術者同士がどれだけ「何げないおしゃべり」に花を咲かせることができるかで、プロジェクト成否が決まってくるのですから。
profile
幸地 司(こうち つかさ)
アイコーチ有限会社 代表取締役
沖縄生まれ。九州大学大学院修了。株式会社リコーで画像技術の研究開発に従事、中国系ベンチャー企業のコンサルティング部門マネージャ職を経て、2003年にアイコーチ有限会社を設立。日本唯一の中国オフショア開発専門コンサルタントとして、ベンダや顧客企業の戦略策定段階から中国プロジェクトに参画。技術力に裏付けられた実践指導もさることながら、言葉や文化の違いを吸収してプロジェクト全体を最適化する調整手腕にも定評あり。日刊メールマガジン「中国ビジネス入門 〜失敗しない対中交渉〜」や社長ブログの執筆を手がける傍ら、首都圏を中心にセミナー活動をこなす。
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