麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」
ハイレゾ最新動向(後編)――DSDマルチと“ハイパーハイレゾ”の魅力(1/3 ページ)
サンプリング周波数やビット深度など、ハイレゾ音源の情報量を示す数字はいくつか存在する。しかし一方で、ハイレゾ音源のマルチチャンネル化や人の可聴域を超えた“ハイパーソニック”など、別の角度から音楽にリアリティーを加える手法も登場しているようだ。AV評論家・麻倉怜士氏に最新の動向を紹介してもらった。
麻倉氏: 前回はハイレゾ音源配信を組み合わせたユニークなパッケージタイトル「シューマン 交響曲全集」(サー・サイモン・ラトル指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団)を取り上げましたが、今回はマルチチャンネルなど、新しい切り口で制作されたコンテンツが続々と作られているという話をしたいと思います。
2つの作品を紹介したいのですが、まずは北村憲昭さん指揮、ワルシャワ・フィルハーモニー交響楽団のドビュッシー「海」、ラヴェル「ラ・ヴァルス」、ドリープ「コッペリア」です。DSD 5.6MHzのステレオダイレクト録音を行い、そこからハイブリッドSACD(2.8MHz DSD、CDとしても再生可)と192kHz/24bitのPCM音源ファイルを収録したDVD-ROMを制作。1つのパッケージにしました。このレーベルは、このようにハイレゾ音源をDVD-ROMに記録する手法で過去にも数タイトルを発売しています(発売元はアイ・クオリア)。
なかでも注目は、後でリリースされるDSD 5.6MHzの配信音源です。4.0chのマルチチャンネルで、容量は10Gバイトくらいあるのですが、それをインターネット経由で配信するそうです。私も先日、コルグの「G-ROCKスタジオ」で聴きましたが、実に素晴らしい音でした。システムはマークレビンソンのアンプにB&Wのスピーカーを4本というハイエンドな構成。まさに「目の前にオーケストラが演奏している感覚」でした。DSD 5.6MHzならではの鮮明なマルチチャンネル音声を聞くことができました。
録音エンジニアはMu-Murakami(村上輝生)さん。コルグの業務用レコーダー「MR2000」で収録しており、再生時にも「MR2000」2台をデコーダーに使用していました。DSDは、2.8MHz(SACDなど)だと“それらしいクセ”というか、なよっとした暖かさが特徴ですが、5.6MHzになると非常に鮮明で剛毅(ごうき)、かつひじょうにしなやかです。ヒューマンで鮮明な素晴らしい音でした。
――一般の家庭では再生できるのでしょうか
麻倉氏: 現在のコンシューマー機器では、DSD 2.8MHzのマルチチャンネル対応機はいくつか存在するのですが、5.6MHzのマルチはほとんどありません。しかし、きちんと設計されたミキシングのハイレゾ・マルチチャンネルは非常に感動的です。その感動を表すのに2.8MHzではちょっと足りません。今後は5.6MHzの音源を配信し、それをきっちり再生できることが、最高の環境になるのではないでしょうか。
一方、音源制作の現場では、DSDの編集がまだ難しいという難点もあります。現在はリニアPCMに変換して「PRO TOOLS」で編集するというパターンになっていますが、コルグが開発した「Clarity」(クラリティ)というシステムを使うと8chマルチトラックのDSDネイティブ収録と編集・ミックスまで行えます。
ただ、このシステムを現在使用できるのは、コルグ社員のほかはオノ セイゲンさんなどわずか3人。また他ファイルからの挿入、入れ替えが難しく、システムとしての成熟度もまだ低いのが問題です。そこで村上氏は独自の編集スタイルを考案しました。リニアPCMに変換し、まずPRO TOOLSを使って編集、そこからデータシートを抜き出し、それに沿って手動でClarityにてイベントをインプットするという面倒なやり方ですが、DSDの編集への新たな道を拓いたことで大いに注目されます。Clarityの問題としては編集の3世代前を参照しようとするとスムーズに動かなくなったり、ちょっと波形を見てみると時間軸が狂ってしまったりするそうです。つまりトラブルが出ることも予測して作業できる人しか対応できません。でもDSD 5.6MHzというフォーマットはあまりに素晴らしいので、コルグには早く多機能な編集環境を作り上げてほしいものです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
メルカリ、梨の転売疑惑に「盗品の出品は確認されず」 誹謗中傷には利用制限も
-
2
Anthropic、「Claude Opus 5」公開 Fable 5に迫る性能を半額で――サイバー安全策は緩和、拒否時は自動フォールバックも
-
3
「iPhone高騰」はこれからも続く? 中国CXMTに近づくApple、メモリ競合へのけん制が不発に終わりそうなワケ【後編】
-
4
「ニューロマンサー」実写ドラマ、Apple TV+で2027年1月配信開始へ
-
5
検索結果に「詐欺ではありません」と表示させる詐欺手口、警視庁が注意喚起 AI要約も餌食に
-
6
「こんなのに追われたら……」急斜面もやすやす爆走、中国製の車輪付き四足ロボのデモ動画が話題 最高時速20km超
-
7
海外の新作バカゲー「電車アタック」にマンガ家が感心した理由 ブッ飛んだ内容と完成度の高さ、そして“日本”
-
8
「めっちゃカメレオン」公式Discord乗っ取り 担当者PCがマルウェア感染、管理者が全員BANに 現在は復旧
-
9
暑さ対策が熱い! 「猛暑対策展」で感じた、転んでもただでは起き上がらない日本人のエネルギー
-
10
スーパーに並んだ「ごちゃごちゃ生成AIポップ」が物議 “看板王”こと、きぬた歯科院長「これはアリ」
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR