8Kの現状と可能性――技研公開で最先端8Kカメラを見た:麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(2/2 ページ)
2020年の東京オリンピックを目指して各種技術の開発が進む8Kスーパーハイビジョン。今年の技研公開では、その進捗をつぶさに見ることができる。今回はカメラなどの撮影技術を中心に紹介していこう。
フルスペック8Kカメラ
麻倉氏: さらに画期的な“フルスペック8Kカメラ”も登場しました。8K/120Hzに加え、階調はRGB各色12bit、色域はDCI(デジタルシネマ用)より広いBT.2020をサポートしています。もちろんプログレッシブです。昨年は色域を広げたカメラとディスプレイを展示していたましたが、今回はフルスペックに進みました。
広色域化は、現行の3板式カメラをベースに色分解プリズムを改造することによって実現したといいます。イメージセンサーは120Hz用に新開発。さらに8Kを伝送できる光ケーブルシステムも作りました。従来の同軸ケーブルなら100本は必要なフルスペック8K映像を、これなら1本で伝送できるのです。
85V型のシャープ製モニターを120Hz化して、BT.2020まではいかないまでも、BT.709(現行デジタル放送の色域)よりもかなり広い色域をカバーした展示機もありました。120Hzパネルは存在しないため、黒挿入や分割表示といった手法で120Hz化にしているようです。
ITU-R勧告のBT.2020では、120Hzや12bitは推奨規格であり、マストではありません(10bit、60Hz等も選択できる)。しかし次世代放送は現行のフルHDを圧倒的に凌駕する必要があります。解像度だけではなく、フレーム周波数やビット深度を高め、ダイナミックレンジの情報を増やす。動画や色の表現力も向上させ、トータルで新しい映像の世界を作り出すことが求められると思います。そして、いよいよ登場したフルスペック8Kカメラや表示機器は、それが夢物語ではないことを示しているのです。
今後はフルスペック8Kに合わせてコンテンツ制作も変わるでしょうし、ディスプレイ開発の目標にもなります。8Kは2016年に試験放送が始まるため、その2年前にフルスペック8K機器が登場したことには意味があります。8Kの進展にも大きな影響を与えるでしょう。
シアターカメラで広がるコンテンツ撮影
麻倉氏: 8Kコンテンツ制作において、これから重要度が増すのが「シアターカメラ」です。8Kコンテンツといえば、従来は種子島宇宙センターからのロケット打ち上げやサッカーの試合など、屋外の明るい映像が多かったのですが、今後は暗い場所での撮影も増えていくはずです。
私が8Kという新しいテレビシステムで見てみたいコンテンツの1つに舞台中継があります。紅白などはもともと雑音も多いコンテンツになので問題はないのですが、クラシック音楽はダイナミックレンジがひじょうに広く、客席は静かです。撮影時には客席側にカメラを設置することになりますが、放熱のためにファンが回っているとカメラの騒音が大きいので、お客さんに迷惑をかけます。なので客席からの撮影は不可能でした。また感度も低かった。舞台の中継や撮影では、舞台で使う照明以外は点けることができません。
今回開発された8Kの「シアターカメラ」は、3300万画素の3板式システムに画素加算という感度アップの信号処理を加えて撮影感度を上げました。解像感を少し犠牲にして感度にふったものです。また、ファンノイズを出さないようにカメラを完全に覆い、代わりに放熱板をたくさん設けています。
実際、このシアターカメラでオペラを――昨年のミラノ・スカラ座来日公演「リゴレット」を撮影しました。その10分ほどのダイジェストを「8Kスーパーハイビジョンシアター」で来場者も見ることができます。
――世界最高峰と言われるオペラですね
麻倉氏: 私としてはベスト3に入るほどの傑作で、実はこの講演も同日にNHKホールで観ました。豪華絢爛(けんらん)でリゴレットの伝統的な舞台、衣装、演出が特徴です。そのため8K映像では衣装のテクスチャーが本当にキレイに見えます。舞台のライティングもそのまま使われていました。中でも第2幕のリゴレットと娘のジルダの二重唱は、8Kならではのディティールとテクスチャー感で、これまでのハイビジョン中継とは全く違う、鳥肌が立つような体験をすることができました。
いま世界では、さまざまに舞台中継が活用されています。例えばメトロポリタン劇場はフルHDで中継するライブビューイングを提供しています。これまで、8K撮影は実用化できていませんでしたが、8Kになれば、観客もよりのめり込むことができるでしょう。8Kとしての新しいビジネス展開も期待できるのではないでしょうか。
1億3300万画素のイメージセンサー
麻倉氏: ほかにもカメラの話題は多いです。将来の技術開発では、1億3300万画素のイメージセンサーも展示していました。現在8K撮影に使われている3300万画素の3板式カメラは、画質は良くても色分解プリズムが必要となり、システムは大きくなってしまいます。カラーフィルターを入れれば解像度は下がりますが、もともと1億3300万画素あれば、それを補っておつりがきます。画素数を増やすと1画素あたりの面積が減って感度が下がりますが、今回は撮像面を35ミリフィルムと同等にまで大きくすることで対応しました。さらに市販のスチルカメラ用レンズが活用できるメリットもあります。
実際に撮影のデモンストレーションも見せていたので、おそらく来年の技研公開では“次世代キューブ型カメラ”として登場するのではないでしょうか。
――後編では、8Kよりも先のテレビ、高度化するスマートテレビ、そして麻倉氏オススメのユニークな展示を取り上げます。
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