「A-S2100」に息づくヤマハ・ピュアオーディオの遺伝子:潮晴男の「旬感オーディオ」(2/2 ページ)
ハイレゾ音源の広がりとともに、オーディオ製品への回帰現象が進んでいる。ヤマハが投入した「A-S2100」もその1つ。製品を見ると過去の資産が正しく受け継がれていることがよく分かる。
そんなことも手伝って試聴には久々にシェルビー・リンが2008年にリリースしたアルバム「ジャスト・ア・リトル・ラビィン」から「この胸のときめきを」と「アイ・オンリー・ウォント・トゥ・ビー・ウィズ・ユー」を聴いてみた。聴きながらふと、7年前にもこの曲をかけたなぁ、という遠い記憶が甦る。
ぼくはイベントでもこのアルバムを良く使う。困った時のなんとかというわけではないが、皆に聴いてもらってよし、機器の試聴にも最適というわけで、ヘビー・ローテーションの1枚である。ちなみにこのCDは二代目だ。フィル・ラモーンがプロデュースしアル・シュミットがレコーディングに携わり、ダグ・サックスがマスタリングを行った、まさに黄金の布陣。録音は76cm/secの24チャンネルのアナログレコーディングなので、LPレコードも素晴らしいサウンドを奏でる。
「A-S2100」で聴くと目鼻立ちのしっかりとした力強い音がスピーカーから放たれる。ヤマハのプリメインアンプは清楚でクリアネスに富んだ表現力を備えているといったイメージがあったが、このモデルはどちらかというとガッツリ型。力があるし肉付きが良い。入力された信号をストレートに増幅するという感じで、ベースラインの足取りもしっかりしていて低域までほどよく制動の効いた感じを伝える。一音一音が明快なので彼女の喉の震えもよく分かる。
VUメーターはVUとピーク表示を行うほか、「オフ」のポジションも設けられている。「オフ」にすると確かに音が静かになりローレベルの再現性が高まるが、せっかくのメーターの照明も消灯してしまう。「A-S3000」の時はオフでの使用もありかなと思ったが、「A-S2100」は「ピーク」表示でもそれほど音の邪魔をしないので、この状態で使っても問題はない。
またミューティングをかけると−20dBまで徐々に音が絞られ、解除すると徐々に元のボリュームレベルに戻るという気を配った設計も気に入った。フルミュートする製品もあるがやはり、−20dBに残る方がぼくは親切だと思う。またトレブルとバスを増減するとリレーが外れるため一瞬音が途切れるが、これもまた前述したようにトーン回路をセンター位置で完全ディフィートにするための方法である。A-S3000同様リモコンでも動作するが、パネルが光って老眼世代には少しばかり文字が見えにくい。この辺りはぜひとも改善の手を差し伸べてほしい部分である。
上位機の「A-S3000」に比べるとドライブ能力に差は出るが、エネルギー感を湛えたアンプなので幅広いスピーカーとの組み合わせに応えてくれるはずである。オーディオを再出発したいという読者にとって、このプリメインアンプは必ずや至福の時間をもたらしてくれることだろう。
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