“未来のテレビ”を打ち出した三菱電機と中国パネルメーカーの攻勢――CEATEC振り返り:麻倉怜士のデジタル閻魔帳(2/2 ページ)
10月上旬に開催された「CEATEC JAPAN 2014」は、ある意味で国内家電メーカーの現状を示唆していた。テレビを前面に出したブースは減り、ソニーのように出展自体を見合わせたメーカーもある。AV評論家・麻倉怜士氏はどのように感じたのだろうか?
さらに音も未来志向ですね。昨年、ソニーが磁性流体スピーカーを画面の両サイドに設けた「X9200Bシリーズ」を発売してトレンドを作りました。ソニーは昨年1月の「International CES 2013」ではシアター形式でお披露目を行いましたが、今回の「CEATEC JAPAN 2014」では三菱電機がそれをやっています。シアターでは、JAZZボーカリストのSHANTI(シャンティ)さんとピアノ、ギター、ベース、ドラムという構成で収録したガーシュウィンの名曲のBDを再生していました。これはたまげましたね。まったくもってテレビの範疇(はんちゅう)ではありません。解像度が高く、音のヌケもいい。従来のテレビの音とは正反対のオーディオ的な音を出していました。
カーボンナノチューブ振動板のスピーカーユニットを搭載しているのは昨年のモデルと同じです。しかしLS1シリーズでは画面の両サイドにスピーカーを置き、ぜいたくな磁気回路やバスレフポート、パッシブラジエーターの併用など、いかに小さいエンクロージャーで高品位な音が出せるかを追求しました。音の解像度が高く、往年のダイヤトーンサウンドが元になっているという気がしました。
LS1シリーズの基本設計を担当したのはダイヤソウルという会社のエンジニアです。実は、もともとダイヤトーンの技術者で、定年退職後に独立して会社を興し、オーディオ製品を手がけているのです。
近年のテレビはフレームを細くすることで「今までと同じスペースにより大画面のテレビを設置できる」と訴求していますが、三菱はそれを完全に無視しました。もちろん、販売上のデメリットはあると思いますが、それ以上にテレビの音はしっかりする必要があると訴えたのです。やはりスピーカーは両サイドに置かないとセンターが出ませんし、音場も正しく形成されません。これまで三菱電機はあまり注目されていませんでしたが、ここへきて注目度が俄然(がぜん)、上がりましたね。
テレビ業界は過去数年、残念なことが続きました。パイオニア、ビクターが撤退し、パナソニックはプラズマテレビを終了。ソニーは別の会社に追いやってしまいました。東芝も今回はリビングが中心でレグザはCEATECの会場で存在感を示すことができませんでした。まるで、これまでの反動のように“赤字の元凶”として扱われてきました。
しかし、三菱電機は違います。京都製作所のメインの商品として残し、ワン・アンド・オンリーを目指しています。しかも、これから進むべき方向に向けた提案もしています。国内のとんがった人たちに向けて作るという意味もあるでしょう。これまでのようにメジャーなメーカーが幅をきかせていた時代と違い、三菱電機は面白いスタンスを持った会社になりましたね。
――テレビという点でほかに見どころはありましたか?
麻倉氏:中国BOE Technology Groupのパネルメーカー、Beijing BOE Display Technologyに勢いを感じました。同社はNHKと協力関係を築いていて、98V型の8K(7680×4320ピクセル)液晶ディスプレイを展示しました。NHKブースの前に並んでいたでしょう。
BOEはまだ若い企業ですが、日本や韓国からの技術移転と最先端志向で地歩を固め、現在では韓国のパネルメーカーを抑え、4Kパネルで高い占有率を誇っています。一昨年のCESではサムスンが同社製パネルを採用した110V型4Kテレビを参考展示しましたが、今回は98V型の8Kですから、より小さく精細なパネルを製造できるようになっています。最初は画質的にいまひとつでしたが、同社の場合は指摘を受けるとすぐに修正します。現在はNHKメディアテクノロジーと協力して実力を付けており、今後はNHK主催の8Kパブリックビューイングなどで同社製パネルを見る機会も増えるでしょうね。話を聞くと、今後は110型、75型、65型も考えていて、将来的には55V型や120Hz駆動の製品なども開発していくそうです。
――98V型ですと8Kの良さは伝わりやすいと思いますが、55V型まで小さくなるとどうなんでしょう?
麻倉氏:そうですね。でも、この会社のすごいところは、疑問に感じたらすぐに作ってしまうところです。試作機を無駄玉とは思っていません。
今のところ、4Kは65V型以上でメリットが大きく、8Kは85V型以上というのが定説です。しかし、40V型の4Kテレビも登場して好評と聞きますから、常識はいつ崩れるか分かりません。事実、ちょっと画面から離れると分かりにくいですが、近づいたときの精細感はメリットです。
2016年の春には、BSで8K/4Kの試験放送が始まります。このタイミングで中国パネルメーカーが積極的になり、国内メーカーにも独特な動きが出てきたことは注目に値するでしょう。
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