テレビ戦線、異常アリ――有機ELで起死回生を狙うパナソニック:麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(5/5 ページ)
今年の「IFA」では、パナソニックがLGディスプレイ製のOLED(有機EL)パネルを採用した欧州向けのテレビを発表して話題になった。その背景をAV評論家・麻倉怜士氏に詳しく聞いていこう。
麻倉氏:日本ではプラズマから液晶への移行を注意深く行っていました。“プラズマのノウハウ”といった、プラズマでの評判をうまく使っていたのですが、ヨーロッパでは技術の導入がワンシーズン遅れてしまい、その間は直下型でもLEDでもなく、CCFLバックライトの旧式を展開してしまっていました。
これによって専門誌の評価がガタ落ちしてしまいます。ヨーロッパでは専門誌のランキングが購買行動に直結するので「プラズマレベルの製品が液晶にはない」というのは大きな問題です。市場は一定評価のあったプラズマレベルを求めていた訳ですからね。
――各社が直下型LEDのローカルディミングでコントラスト100万対1とかをやっている頃に1社だけ時代遅れのCCFLだと、それは確かに「あのプラズマを出していたのに、どうしちゃったのパナソニック?」ともなりますよね
麻倉氏:そのため昨年、突如としてLGパネルを用いたOLEDを出したという訳です。しかも色ムラなども少なく安定していて、本家のLGエレクトロニクスよりレベルが高い。昨年の段階で既に「パナソニックに行って勉強してこい」と、LGの技術者がブースへ勉強に押しかけてきました。こういった話があって今年に至っているわけです。
ヨーロッパでは65型の曲面モデルを来年から出すと発表していますが、価格は確実に今の液晶の倍になるでしょう。これは下がった評判を回復させるというブランディングのためです。画質に注力したハイエンドモデルとなるはずです。これに対して日本は一定のブランド力を保っているため、ヨーロッパとは事情が異なります。そもそも出すかどうかも分からないです。
――OLED供給の裏に、思いもよらぬ事情があったのですね。
麻倉氏:今回、パナソニックは、画作りにかなり苦労をしたらしいです。というのも、私もたびたび指摘しているのですが、まだLGのOLEDパネルは画質が不安定なんですよ。特に暗部諧調が悪かったり、全体の均一性もいまひとつだったり、カラーシフトが起こったりなどが見られます。暗いところのS/Nは特に悪いです。
こういったパネル由来の問題を、パナソニックはプラズマの技術で対処しています。もともとプラズマも暗部階調が悪かったが、予備発光の制御、S字ガンマの液晶と違ったリニアなガンマカーブ、駆動コントロールなど、プラズマ開発時代に色んなことをやってきました。過去の技術蓄積が、今になって生きてきています。
パナソニックは、「良いものに対して悪いものの原因は何か」というインプレッションやノウハウ、方法論が確立しています。開発においてはこれが非常に効いているようです。私はまだじっくりと視てはいないですが、特に暗部S/Nが格段に良くなったとのことです。LGの民生品より良いらしいです。
――プラズマからの画質の灯が脈々と受け継がれているというのは、非常に明るい話題ですね
麻倉氏:パナソニックへのパネル供給は、LGにとってもOLED陣営に援軍が来たということで良い効果です。また、パナソニックの指摘がOLEDの根本的な画質向上に役立っているという話も聞きます。
次はソニーでしょう。すでに自社生産で、放送局用有機ELモニターに進出していますが、価格がひじょうに高いので、LGディスプレイの有機ELパネルを使うセカンドラインは充分に考えられます。ソニーの民生機にも期待です。そうそう、パナソニックはヨーロッパばかり出さないで、日本のオーディオ・ビジュアルファンにも有機ELテレビを贈ってほしいものです。OLEDは液晶にない「新世代の画質」を持っていますので、期待です。
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