手は出ないけど気になる――“ハイエンド”の世界に迫る:秋のヘッドフォン祭2015(2/2 ページ)
「秋のヘッドフォン祭り2015」では世界中のオーディオブランドが東京・中野に集結した。オーディオショウの醍醐味(だいごみ)といえば、普段は聴けないハイエンドモデルも試聴できることだろう。
金属製ヘッドフォンの衝撃、再び
今回出展されたヘッドフォンのうち、最高額はおそらくfinalの新製品「SONOROUS X」だろう。販売価格は前代未聞の62万9000円。ゼンハイザー「HD800」を3本買ってまだお釣りがくる。
アルミとステンレスの輝きがまぶしいSONOROUS Xだが、メタルパーツは外装だけでなくチタンのドライバーにも及ぶ。およそ半額(それでも38万8000円)の「SONOROUS VIII」と比較すると、Xは堅牢なドライバーに更に補強材を入れて、制振性能を追求している。実際に使用感を比較をすると、元気な音のVIIIに対して落ち着いた上品な音のXという感覚だ。
SONOROUS XとVIIIのドライバー比較。左側のX用にはチタン製のドライバーに補強材が入っている。画像右のヘッドフォンは「SONOROUS VIII」。HD800が2本買える価格にも関わらず、トップエンドではない
海外では先行発売されているSONROUS Xだが、特にヨーロッパで人気らしく、生産が追いつかないために日本での発売が遅れているという。それもそのはず、SONOROUS XとVIIIはどちらも手作りで、一日で数台しか生産できない。クロム銅削り出しの「Piano Forte X」で超高額イヤフォンの世界をこじ開けたfinalが、ヘッドフォンでも新たな価格の世界に踏み出すわけだが、これだけ高額になる理由は設計段階にあるという。通常は売価を設定して、そこからはじき出される予算の中で設計をするのが普通だが、finalのハイエンドモデルはそうではなく設計ありきの原価積み上げ式だそうだ。その結果「これだけの部材を使うなら売価はこれくらいじゃないとやってられないよね」となり、異次元の価格がはじき出されるのだという。
こだわりのために妥協を許さず、理想をカタチにしてゆくそのあり方は正しくハイエンドだ。これまでにない高額ヘッドフォンであるにも関わらず、日本でも既に予約がそこそこ入っているというから、さらに驚きである。
オブジェのような美しい真空管アンプと、電源不要の静電式ヘッドフォン
米エニグマアコースティックのブースでは、ガラスの筐体で覆われた美しい真空管アンプ「Athena A1」と、電源不要という画期的な静電式・ダイナミック型ハイブリッドヘッドフォン「Dharma D100」を聴くことができた。何れも今年春のヘッドフォン祭りで参考展示されていたもので、今回の出展は製品版である。価格はAthena A1が24万円、Dharma D100が18万円。
Athena A1は美しく整形された分厚いガラスのケース内に、上半分には真空管を、下半分には大きなトランスとコンデンサーが収まっている。回路は入力段にECC82真空管をシングルエンドで、出力段はバイポーラとユニポーラ(FET)の各トランジスタを用いたハイブリッド構成だ。真空管というと熱が気になるところだが、展示品は半日電源を入れ続けても“ほんのり温かい”程度だった。置いていると1000度で整形したガラスの筐体が美しく、使っていると真空管が柔らかく光るたたずまいが美しい。音は柔らかく深みのあるもので、“見て良し、聴いて良し”のアンプである。カラーはシルバーとガンメタの2色で、ガンメタは受注生産だが、価格はすべて同じだ。
Dharma D100は、低域にダイナミック型ドライバーを、高域には電源ユニット不要の静電式ドライバーを採用した、風変わりなハイブリッドヘッドフォン。静電式ヘッドフォンというとSTAXが有名だが、一般的にはアンプとは別に駆動用の電源ユニットが必要になる。それに対してDharma D100は自社生産のスーパーツィーター「Sopranino」でも用いられている電化飽和状態の特殊フィルムを用いることで、ダイヤフラム自身で電界を作ることに成功し、電源不要の静電式ヘッドフォンを可能にした。特殊フィルムはスーパーツィーターに用いられる素材なだけあって、高域5万Hzまでの再生をうたっている。
外装にもこだわっており、ハウジングはアルミニウム製のリシッドな仕上がり。ヘッドフォンの上半分は全て手作りで、柔らかく肌触りの良い革部分は手縫いで作られている。ただの新技術にとどまらない、使う喜びを感じる1本になりそうだ。
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