ベスト高音質 音楽部門(ポップス他)「オン・ア・ミッション〜ライヴ・イン・マドリード」
麻倉氏:次はポップス部門ですが、受賞作の前に私が良いと思った「BEGIN 25周年記念コンサート」についてお話しましょう。トピックとしては音声を96kHz/24bitで録音しており、ドルビーアトモスも収録されている(こちらはフォーマットの都合で48kHz/24bit)ということですが、絵の方もかなり良いです。チャプター31の「島人ぬ宝」などはハイレゾらしい臨場感のあるクリアな音で、ステージ上の総勢100人に及ぶ壮大な音響感と合唱感を味わえます。バスドラムの低音は録音にあたって数名にピンマイクを仕込み、マルチトラックで同時に全体を収録しています。これが上手くいっていて響きは雄大、マルチチャンネルのクリアさがありました。
一方の受賞作はハードロックのタイトル「オン・ア・ミッション〜ライヴ・イン・マドリード」です。マイケル・シェンカーの2016年マドリードにおける録音で、音声仕様はリニアPCMとドルビーTrue HD 5.1という従来型サラウンドに加えて、こちらもイマーシブサラウンドのドルビーアトモスが採用されています。オーディオビジュアル的には“ドルビーアトモスが舞台・ライブ作品でどう使われるか”というショールーム的な内容になっています。立体的に広がる音場の中で楽器の細かな音が繊細に捉えられており、視聴空間全体にレイヤーを含んで垂直方向に響く会場のアンビエントや、スチール弦のシャープな音が会場の空気を一変する様子などが大変に細かいです。
――ドルビーアトモスは映画向けのイマーシブサラウンドというイメージがありますが、ビギンといいマイケル・シェンカーといい、音楽タイトルでのドルビーアトモスが出てきたというのは意義深いと感じます。この受賞は音楽タイトルの今後を占う評価になりそうな予感がしますね。
クラシック意外の音楽ライブなどを評価するポップス他部門。入選作品4タイトルのうち2タイトルの音声でドルビーアトモスを採用したという点が実に興味深い。今後は音楽ライブタイトルでもイマーシブサラウンドが増えるだろうか
ベスト高音質賞 音響効果部門「バットマン vs スーパーマン」
麻倉氏:高音質と聞くと音楽タイトルに目がいってしまいがちですが、音響効果部門では映画に限らず、ドキュメンタリーやスポーツといった音楽作品意外の高音質を評価します。昨年末のデジタルトップテンで4位にランクインした「宮古島」もここで入選しています。音のすごさ、心地よいリズムで打ち寄せる波のクリアさとHi-Fi感が実に見事です。あるいは「デッドプール」の場合、クルマとバイクによるカーチェイスのスピード感やマシンガンの銃声など、ハイテンションなエネルギー感が音声で表現される様がすごかったです。
しかしNo.1はやはり「バットマン vs スーパーマン」。昨今のワーナーはアメコミもののスーパーヒーローが席巻している感がありますが、これには理由があってアメコミキャラというのはハリウッド映画に良くフィットするんです。
――アメリカで映画を発明したエジソンをはじめとする東海岸の利権者達から逃れて形成されたのが、西海岸でロケに必要な広い土地が確保できたハリウッドという歴史があります。現地の文化として西部劇が盛んに撮られたわけですが、そういう西海岸的なヒーロー像が現代ではアメコミで表現されています。何よりもヒーロー物は痛快なアクション活劇ですから、アメリカの国民性とも良く合いますね。
麻倉氏:評価用クリップは雨の中でバットマンとスーパーマンが対峙するチャプター11で、マシンガンや光線の音、主人公の2人がぶつかりあう音や建物の破壊音などが非常に複雑にサウンドデザインされ、ハイテンションで痛みを感じさせるほどの迫力があります。とてもクリアで音が厚く、解像感が高くてSEの中に色々な音やセリフが入っています。声の質感の違いもよく出て力感も良いです。しかも音声は立体音響のドルビーアトモスなので、効果音と音楽が天井から降り注ぐ中で両者の戦いが繰り広げられ、独特の音のきらめき感があります。このチャプター11は空から雨が降り、加えてスーパーマンは空を飛ぶので、ドルビーアトモスの垂直方向が生きていました。
――こうして音に関わる賞を並べてみると、新技術であるドルビーアトモスが優勢なように感じます。審査においてそのあたりはどうなんでしょう?
麻倉氏:音楽でもそうですが、映画の音には音質と音場という2つの要素があります。ビギンのところでも注釈を入れた通り、アトモスの音質は48kHz/24bitに限られますが、立体音響特有の開放的な音が出るのが魅力です。従来の5.1chだと平面的な広がりは確かにありますが、これが上に広がった時は会場の描写力がとても高まり、音に包まれる感覚が出てきます。
実は先日、音楽プロデューサーの入交英雄さんと会った時にイマーシブサラウンドの利点について話をしました。入交さんは「2chなどチャンネル数が少ない時に、響きと直接音をどんなバランスにするかというのはとても大変。直接音をメインにすると響きの潤いがなくなり、響きをメインにすると銭湯の音響空間みたいに明瞭(めいりょう)度がなくなる。イマーシブならば響きをタテ方向に、直接音を2chや5.1chの平面にもってきて、部屋の中で空間合成して2つの要素を一緒にすることでどちらもクリアになる」と話していたのですが、これには私も同意するところ大で、確かにマイケル・シェンカーなどはギターの直接音が会場に轟くバランスを感じました。
確か2015年のデジタルトップテンでこういう使い方の話題を出したと思いますが、それがセルソフトで明確に出てきた格好です。今年は各社のAVアンプにAuro-3Dが搭載されるともいわれていますから、イマーシブサラウンドの使いこなしがこれからどんどん進むことが期待できます。
――次回はブルーレイ大賞リポートの後編で、高画質賞の各部門と大賞を中心にお届けします。BDが持つ真の実力を知りたい方は必見です!
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