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感情を表現できるDACとは? 麻倉シアター大改革(後編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(2/2 ページ)

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オマケコーナー:IFA GPCこぼれ話

麻倉氏:折角ですから4月に開かれたIFA GPCのお話もしましょう。IFA GPC(Global Press Conference)は9月にベルリンで開かれるIFAのプレイベントとして、ヨーロッパ各地で毎年開かれています。ここ数年はマルタ島やトルコのアンタルヤなどで開かれており、今年の開催地はヨーロッパの西の果ての街、ポルトガルの首都リスボンでした。

 内容は主にIFAの予告と最近のトレンドの発表ですが、今回行ってみて「どうもIFAが変わりつつあるぞ」ということを感じました。

――従来のIFAは“家電の大型国際見本市”というイベントでしたね。それが変わりつつあるとは、どういう事でしょう

麻倉氏:指摘の通り、これまでは流通とメーカーのためのトレードショーというのがIFAの基本スタンスでした。そのためにイベントは9月に開催されていて、これは11月から始まるクリスマス商戦の仕入れに対するベストタイミングです。

 では、どこが変わってきたかという話ですが、今回は3つ新しいことを発見しました。1つ目はIFA会場とは別にOEM/ODM向けの専門パビリオン「IFAマーケット」をセットするということです。中国や台湾といったOEMアッセンブリメーカーと、そこにサプライとして部材を納入するメーカー、そしてセットメーカーが一堂に会するという空間になるとのことです。これの利点は、これから何かを作ろうとしている時に、ここへ来れば設計、製造、部材調達といった依頼をワンストップでできるということでしょう。

 2つ目は、従来「中国館」として設定されていた場所を「イノベーション館」に変更するということです。今まであちこちのホールへ分散していたスタートアップ、平たくいうとベンチャー企業をこの空間に集中させて、新興企業を応援しようというのが狙いです。そして3つ目は、この2点で空いた場所にブランドカンパニー、つまりこれからブランドを作ろうとしているところを集めるというものです。

――うーん、「中国館」に入っていた企業はファーウェイなど一部の例外を除いて、ほとんどがOEMメーカーでしたから、一見すると単なる配置換えとも受け取れなくもありません。これによってどんな変化があるのでしょうか?

麻倉氏:先にも確認した通り、これまで9月に開かれた“完成品をやり取りする大商談会”で、立ち位置としては物流に近かったわけです。メディアの多くも「数カ月内に出てくるであろう新製品」を目当てに、世界中から取材に詰めかけていました。対してこれらの変化から言えることは「これからはモノづくりにフォーカスするぞ」ということです。単なる売り買いの推進だけでなく、モノづくり(OEM/ODM)と技術、トレンド作り(スタートアップ)を包括的に推進していく、こういう方針に入ったというのが私の解釈です。

 よく比較される年始のCESは生粋の先端技術展示会で、いわばモノづくりにおける最上流のイベントです。一方のIFAはどちらかというとものづくりの下流寄りでした。それがどうも遡上しつつあるのではないかと私は読んでいます。IFAがきっかけとなるヒットを作る。そんな流れがあるようです。


ホール26、濃い赤の位置が「イノベーション館」となる場所。この周辺は中国などのアジア系メーカーがブースを構えていた

韓国サムスンのテレビ戦略に変化

麻倉氏:もう1つ、サムスンのテレビに関する発表が興味深かったので話をしましょう。サムスンは3年くらい前まではLGより画質で有利な3原色発光のOLEDをやっていましたが、大型化に対する技術的ブレイクスルーを得ることができず、4K移行を境にOLEDをやめました。今ではOLEDに懐疑的というのがサムスンの立場で、近年は「OLEDよりSUHDが良い」と言っていました。

 ちなみに「SUHD」はLEDバックライトとQD(量子ドット)を組み合わせた液晶のことで、昨今はさらにSUHDを「QLED」と言い変えています。ではこの4月の段階では何と言っていたかというと「The discussion of picture quality will obsolete.」(消え行く画質論議)。この発言はビジュアルディスプレイヨーロッパ支社ヴァイスプレジデントのミハエル・ゾラ氏による公演で飛び出したものです。

――Obsolete、ですか? 「陳腐化」とか「廃れた」とかいう意味の言葉ですが、現状のテレビ市場を鑑みるに、特にハイエンドを見るととてもそんな言葉を当てはめる気にはなりませんが……

麻倉氏:サムスンの言い分によると「時代は壁掛けテレビ」だそうです。この場合画質云々ではなく、ワイヤーをどのように処理するかという方が大きな問題で、15mくらいのケーブル1本でSTBとディスプレイを接続し、STBは隣の部屋に置いておく、という構想を持っています。


サムスンによると「画質の話はもう古い、これからのテレビは“見え方”ではなく“見せ方”だ」とのこと。確かにカッコよく見せるにも高い技術を要するが、もしかすると単なる見掛け倒しにならないだろうか……

麻倉氏:当然「なぜこのような方針か?」という問が出てくるでしょうが、その回答はとてもシンプル。ずばり「負けるから」です。

――うわぁ、バッサリ……

麻倉氏:世界中どこを見回しても、今ディスプレイのトレンドは間違いなくOLEDです。再び画質論議が華やかになっています。でも液晶ベースのサムスンは輝度以外は勝ち目がありません。勝てない土俵で戦うのではなく、自分達が戦いやすい土俵を用意する、というのがサムスンの戦略ですね。

 つまりサムスンは技術ではなくマーケティングで売るという方針をとったわけです。以前は結構技術志向でやっていましたが、近年はそれを出さなく(出せなく?)なっていました。ならば別の切り口でやっていこう、というところでしょうか。

――たしかに経営戦略としては正しいのかもしれませんが、これはあまりにキツイですね

麻倉氏:大多数の会社が「OLEDの画質がスゴいぞ!」と言っている中で「ウチは画質スゴいぞ」と言えないところは、技術を押し出せない悲しさでしょうか、それともマーケティングに対する自信の表れでしょうか。そんなサムスンの現状がよく現れているエピソードでした。サムスン電子にも、ぜひ技術と画質で頑張ってもらいたいものです。

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