連載
» 2007年05月28日 00時00分 公開

温室効果ガス削減の背景に各国の思惑藤田正美の時事日想

世界各国が環境問題に取り組み始めている。安部首相は「2050年までに温室効果ガスを半減」と長期目標を掲げ、ブッシュ大統領はバイオエタノールの混合で化石燃料の消費量を削減するという。しかし温室効果ガスを削減するには原子力発電の利用が欠かせない。

[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。 東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”」


 2007年1月に米国のジョージ・ブッシュ大統領は、2017年までにガソリン消費量を20%削減するという目標を発表した。EU(欧州連合)の議長国であるドイツのアンゲラ・メルケル首相も2020年までに、1990年比で温室効果ガスを20%削減するという目標を打ち出している。イギリスでもゴードン・ブラウン次期首相(労働党)と野党保守党のデビッド・キャメロン党首が、どちらがより環境に優しいかを競っている。そして日本の安倍晋三首相も、2050年までに二酸化炭素の排出量を世界で50%削減するという構想を発表した。ここにきて世界が環境に対して優しくなっているかのように見える。

ブッシュの政策に現実味

 2050年という長いスパンの目標にどれほど現実味があるかは別にして、問題は具体的な施策がどれぐらい伴うかにある。その意味では、バイオエタノールを混合することで化石燃料の消費量を20%削減するというブッシュの政策が最も現実味がありそうだ。

 燃費効率の向上によってガソリンを5%節約し、後はバイオエタノールによって15%節約するというのがブッシュ大統領の政策。バイオエタノールはトウモロコシから作るのだが、もともと植物は空気中の炭酸ガスを取り込んでいるのため、それが燃料として燃やされても温室効果ガス(二酸化炭素など)を新たに排出することにはならないという議論である。

 米国がバイオエタノールに熱心なのは、環境だけが理由ではない。エネルギー安全保障の観点から、輸入石油への依存度を引き下げるという目的もある。しかしバイオエタノールが本当に環境に優しいのかどうかは別の話だ。トウモロコシを育てるために必要なエネルギーやエタノールを作り出すために消費されるエネルギーを考えると、バイオエタノールはそれほど環境に優しいわけではないという見方も根強い。それに燃料としてトウモロコシが消費されるために穀物相場も上がっている。さらに米国政府は1リットル当たり13.5セントの補助金を出している。こうした点を勘案すると、トウモロコシから作るバイオエタノールがどれだけ温室効果ガスの削減に効果があるか、補助金がなくなっても経済的にやっていけるのか、疑問という向きもある。

 米国の場合、連邦政府とは別に州レベルでも温室効果ガスへの取り組みがなされている。ニューヨーク州など北東部10州では、地域温室効果ガス構想という大規模な排出量取引を2009年に始めるという。また3700万人と全米で最も人口が多いカリフォルニア州は、アーノルド・シュワルツェネッガー知事が2020年までに現状より20%、2050年までに80%温室効果ガスを削減するという方針を打ち出した。

 連邦政府や州政府だけではない。1月の一般教書演説に先立って、米国を代表するGE(ゼネラル・エレクトリック)など大手企業10社と環境保護団体が、企業に温室効果ガス削減を義務づけるように提案した。大企業が提案した理由は、もちろん環境に優しい企業のほうがイメージがいいということもあるが、少し意地悪く見れば、あまり厳しい規制をかけられないように先手を打つという狙いもあったかもしれない。ただこの提案について、ホワイトハウスは一蹴している(参照リンク)

 米国はようやく環境問題に目覚めた形ではあるが、今のところホワイトハウスは「いかなる数値目標にも反対」という姿勢を崩していない。環境政策はそれぞれの国が内政問題として取り組むべきだというのである。この姿勢の背後には、他国のことに口を出さないというよりも「自国のことに口を出されたくない」という考え方がある。

原発再開によって汚染が広がるか

 温室効果ガス削減をどう達成するかは、それこそ国によって千差万別だが、世界的にはっきりしているのは原子力発電の利用である。すでに米国は長らく中断していた新設原子炉の計画を詰めている最中だし、イギリスも解禁するようだ。背に腹は代えられないとしても、原発には原発で大きな問題もある(4月25日の記事参照)。最大の問題は核のゴミだ。日本でも最終処分の候補地すら決まらず、まったく宙に浮いたままになっている。原発再開はいいけれども、そこから出るゴミをどうするかをはっきりさせないと、別の汚染が広がってしまうかもしれない。

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