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» 2007年04月25日 00時00分 UPDATE

藤田正美の時事日想:原発がやってくる

経済成長を背景に電力不足が深刻のアジア。そのため原発ラッシュの勢いが止まらない。米国やドイツでも建設が懸念されており、“世界同時進行”の可能性も出てきた。

[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。 東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”」


 エネルギー需要の急増が世界的に広がっている。なかでも中国とインドがエネルギー需要国の筆頭格だ。インドにはエネルギー源が少なく、中国は国内生産分だけでは原油が足りない。

 需要が急増しているため、原油価格は高騰傾向にある。今年1月には1バレル50ドルを切っていたNY市場の指標銘柄WTIは、今や70ドルに近づいている。ヘッジファンドが資金を引きあげていた昨年は、相場の乱高下に終止符が打たれたかのように見えた。しかし、大産油国イランの核開発をめぐる緊張が続いている。中国とインドの高度成長が続く見通しのため、再び相場が上昇基調にあるようだ。

半分以上がアジアに集中

 米国はクリントン政権の時に再生可能エネルギーに軸足を移したため、原発は冷遇され、新設計画は消えてしまった。同様に欧州でも原発計画が次々に中止され、なかにはドイツのように既存原発の廃棄を決めた国もあった。

 しかし、その流れは逆転している。とりわけアジアの原発ラッシュは、勢いがある。2006年12月現在建設中あるいは建設予定の原発を数えてみると、日本14基、中国10基、インド8基、韓国8基、台湾2基、インドネシア4基、ベトナム2基、パキスタン1基――アジアで合計49基の原発が計画されている。世界中で建設中または建設予定の原発は82基。半分以上がアジアに集中していることになる。(参照リンク,PDF)

 経済の高度成長期にあるアジアは、電力を中心にエネルギー不足が深刻だ。その意味では原発ラッシュになるのも理解できる。しかし、原発への回帰を決めているのはアジアだけではない。

180度転換したブッシュ大統領

 ブッシュ大統領は就任後の2001年5月の演説で、クリーンかつ供給面で制約がない原子力発電を拡大しなければならない、と強調した。クリントン時代の原発に対する姿勢を180度変えたのである。アメリカは103基の原子炉を持つ世界最大の原子力発電国。2007年は「原発ルネサンス」とも呼ばれ、現在16件の新設プロジェクトがある。老朽化している原子炉も多いだけに、動き出せば加速度的に原発計画が出てくるかもしれない。

 ドイツでは2002年に、段階的に原発を廃棄する法案を可決した。シュレーダー連立政権(社会民主党と緑の党など)が連立の政策協定を実現させたのである。ドイツで運転中の原発は17基だが、現在のメルケル連立内閣は廃棄計画そのものを見直す可能性もある。

 IEA(国際エネルギー機関)の見通しでは、2030年までに原発による発電量は、少なく見積もって13%、多く見積もれば40%増加する可能性があるという。(参照リンク,PDF)

原発特需? 原子力メーカーが強気

 こうした情勢を背景に、原子力メーカーは強気に転じているという。例えばGE(ゼネラルエレクトリック)の原子力部門では、2020年までに6600万キロワット(原発にして44基分の発電量)の発注があると見込んでいる。さらにフランスの大手原発メーカー・アレバでは2030年までに、130カ所の原子力発電所が建設されるだろうと予測する。

 原子力が注目されているのには、いくつか理由がある。ひとつはコストの問題だ。現在の相場で見ると、原子力の発電コストは石油とガスよりも安く、石炭とほぼ同じだ。さらに環境に与える負荷の問題も大きい。原子力は、化石燃料と違って温暖化ガスの原因とされる二酸化炭素を出さない(これをカーボン・フリーと呼ぶ)。

 エネルギー安全保障に関心が高まっているなか、ウランの供給国がカナダやオーストラリアという政治的に安定した地域のシェアが大きいことも重要なポイントである。たとえば石油は、中東、中央アジアという不安定な地域の下に眠っているし、天然ガスは1位がロシア、2位がイランと不安定な地域だ。(参照リンク)

核のゴミは未解決

 こうした理由から、原子力発電所が「復権」しつつあり、懸念を抱いている。事故はもちろんのこと、将来の問題として「核のゴミ」処分だ。使用済み核燃料など高レベル放射性廃棄物については、各国が責任をもって最終処分(自国の地中深く埋める)をすることになっている。しかし、最終処分場の立地が決まっているのは、フィンランドと米国ぐらいだ。

 日本は候補地すら決まっていない。ちなみに日本は使用済み核燃料を再処理することにしており、結果的に大量のプルトニウムが蓄積している。高速増殖炉による燃料サイクル構想が挫折しており、大量のプルトニウムをどうするのか、これも頭の痛い問題だ。

 大きな問題を抱えたまま、世界の原発は急激に増えていく。

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