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» 2007年06月12日 08時45分 公開

計算方法で「企業価値」が変わるロサンゼルスMBA留学日記

M&Aでは企業価値が取り上げられます。しかしこの企業の「値段」はどうやって決まるのでしょうか? 複数の値段がつくこともあるようですが、そのメカニズムについて見ていきます。

[新崎幸夫,Business Media 誠]

著者プロフィール:新崎幸夫

南カリフォルニア大学のMBA(ビジネススクール)在学中。映像関連の新興Webメディアに興味をもち、映画産業の本場・ロサンゼルスでメディアビジネスを学ぶ。専門分野はモバイル・ブロードバンドだが、著作権や通信行政など複数のテーマを幅広く取材する。


 企業買収に際して、買い手によってさまざまな値段がつくのはよくあることです。MBAの授業でもケース・スタディとして、しばしば企業価値を試算しますが、計算法によっては金額の差がすごく開きます。ある人間が5億円と計算したものが、考え方によっては10億円になります。なぜ1つの値段に収まらないのでしょうか。

 そもそも企業の価値とは何なのでしょう。まず考えたいのは、株価と企業価値の関係です。いろいろと専門的な話がありますが、簡単にすすめていきます。

市場は“間違った”株価をつける

 企業の価値とは何か? 簡単な指標として、株価に注目する方もいるでしょう。「株価×株数=その会社の時価総額」となります。これに有利子負債を足せば、その会社の企業価値になる(会社の全資産は資本[=Equity]と負債[=Debt]に分解されるから)という話があります。

 ただこの考え方は「株価が企業価値を適切に反映している」ということを前提にしています。株価が不適切に変わるようでは、その指標は信用できないからです。

 この部分に関しては、いろいろと議論があるようです。ファイナンスの世界には「効率的市場仮説」(Efficient Market Hypothesis)といって「市場は常に正しく株価を決定している」という仮説があります。これに従えば、株価はいつも適切であり「割安株」は存在しません。なぜなら、そうした株があると人々は買いに殺到して、正しい価格に修正されるからです。

 この仮説は正しいでしょうか? 正しいことを裏付ける話も多いものの、一般に「100%正しい」とはいえないようですね。授業でも「正しい」とはいえない、と習いました。つまり市場は、企業に対して時に間違った株価をつけます。ライブドアの株価が一時期乱高下したのも、“間違った”値段を修正する動きだったのかもしれません。

 というわけで、株価は企業価値の参考とするのにはいいのですが、唯一無二の単純な指標として計算に使うのは、無理がありそうです。ではどうやって企業価値を算定したらよいのでしょうか? ここで「DCF」「マルチプル」手法が出てきます。

見方によって違う企業価値

 DCFとはディスカウント・キャッシュ・フローの略です。企業がどれだけ自由にできるキャッシュを生み出せるのかを考えた上で(フリー・キャッシュ・フローを考えた上で)それを現在価値に割り戻し(ディスカウントして)計算する、という手法です。この場合、企業価値とは「どれだけキャッシュを生み出せるか」という部分と対応してきます。とにかくキャッシュが大事だということです。

 マルチプルとは、「かけ算」「比例」の考え方です。企業の収益力を見る指標のひとつにEBITDA(Earnings Before Interest, Tax, Depreciation and Amortization)というのがありますが、例えば企業価値とはEBITDAに比例しているのではないか、といった発想です。EBITDAのような特定の数字に注目して、「その何十倍が企業価値だろう」と考える、計算法です。前述のDCFよりはざっくりとした計算ですが、上手く使えばかなり有力な企業価値算定ツールとなります。

 このように企業価値をはかるための式が存在します。それなら、この式に沿って計算していけば企業のバリューは唯一無二の数字にいきつくのでしょうか? ……残念ながら、そうはなりません。

 例えばDCFの計算には好き勝手に変えられる要素が多く存在します。DCFの式には「企業の成長率」というファクターが必要ですが、将来的に「平均3%」で成長していくと予想するのか、「平均4%」とするかで数字が大きくぶれてきます。

 企業買収ともなれば買収企業、被買収企業それぞれに投資銀行のアドバイスを得て計算をします。それぞれが「成長率は2%だから企業価値は100億円のはずだ」「いやいや成長率は5%だから、200億円ですよ」と主張すれば双方の値段が大きく乖離(かいり)してしまいます。見方によって、企業価値はいろいろと異なってくることになります。

「シナジー」の価値をどう判断するか

 もう1つの重要なポイントは、買収のキーワードとなる「シナジー」です。シナジーとは、買収企業と被買収企業の間で発生する相乗効果です。「1+1が2ではなく、3になり4になる」ということです。

 買収者は、このシナジー込みで企業価値を設定します。1+1が3になれば、ターゲットにした企業の買収価格は「1」ではありません。シナジー込みで「2」の価値がありますから、「1.7」ぐらいの値段で買収しても「問題ない」ということになります。

 しかし、この「シナジー」の価値をどう判断するかも難しく、「本当にシナジーが発生するのかどうか」も分からなかったりします。実際に今年5月、米Microsoftが米Yahoo!(報道当時の時価総額は380億ドル)を買収しようと交渉しているという報道がありました。米国のウォールストリートは「果たしてシナジーがどれほどあるのか?」と懐疑的な見方も出ていました。買収価格は500億ドル(約6兆円)ぐらいだろうというという声も上がりましたが(5月5日の記事参照)、これはYahoo!のキャッシュを生み出す能力、およびシナジーなどを考えた上でウォールストリートのプロが「ざっくり500億ドル」と計算したということです。

 個人的に印象に残っている日本の買収劇としては、ソフトバンクの日本テレコム買収があります(2004年5月の記事参照)。日本テレコムはその少し前にリップルウッドによって2613億円で買収されていました。ソフトバンクはそれを大きく上回り、3400億円もの値段をつけて買い取ったのです。ここでも、シナジーの話が出てきます。

 当時ソフトバンクの孫正義社長は「日本テレコムの法人向け回線を買うことで、コンシューマーサービス主体だった同社のブロードバンド事業を大きく強化できる」とアピールしました。要するに、仮に日本テレコムの価値そのものが2600億円だったとしても、「ソフトバンク+日本テレコム」が生み出すシナジーは800億円以上の価値があると主張したことになります。

 買収とは、ときに市場のパワーバランスも変えます。ある企業の価値は、まったく門外漢の企業にとって100億円でも、その企業を獲ることで大きく飛躍できる企業にとっては300億円かもしれない。買い手の状況によって価値が変わってくるわけですから、なかなか難しいものです。

外国人の数の数え方

 文化が違えばいろいろ違うということで、外国人の「手を使った数の数え方」について紹介します。

 まずは下の写真をご覧ください。日本流の「6」ですね。

 しかしこれが米国流だとどう表現されるか?

 こうなります。さらに台湾風の数え方だとどうなるか。

 こんなことになります。「なんで?」と聞くと、台湾人は「なんでもなにも、これが6だといったら6だ」と言いました。ちなみにですが、台湾で「7」はこうなります。

 これまた珍妙な形ですが、そのココロは「人差し指と親指の角度が数字の7に見えるから」。海外の仲間と数を数えるときは、「じゃあ6つね」と指で示してもスムーズに通じないことがあるので注意したほうがよさそうです。


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