このまま自滅するのか、ニッポンの政治藤田正美の時事日想

» 2008年03月24日 10時50分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 最近の英エコノミスト誌は日本について辛口である。というよりも、日本がほとんど機能麻痺に陥っていることにかなりイライラしている様子だ。それは欧米では共通認識なのかもしれない。

日本の政治は自己破壊的、自滅的

 「日本の危機は政治の危機である」と同誌が書いたのは2月のことだ。新聞が抄訳を掲載したり、テレビでも報道されたので「JAPAIN(JAPANとPAIN=痛みの造語)」という言葉に記憶のある方もいるだろう。

 最新号(3月22日号)でも現在の日本の政治状況について報じている。タイトルは「カミカゼ・ポリティックス」である。つまり、日本の政治が“自己破壊的、自滅的”であるということだ。

 この記事の書き出しはこうだ。「2007年夏に日本の政治が直面したトラブルは、いまや危機へと進化しつつある」

 同誌がそう書いているのは、リーダーシップを発揮できない福田首相に、腹の内が読めない民主党の小沢代表が、道路特定財源やいわゆる暫定税率をめぐって妥協の道を探れないままに激突するように見えているからだ。

 日銀総裁人事にそれが最も典型的に表れている。政府は旧大蔵省出身の武藤敏郎副総裁の昇格人事を国会に諮ったが、参議院で民主党に蹴られてあえなくご破算。副総裁候補として挙げた東大大学院の伊藤隆俊教授まで反対されてしまった(ちょっと脇道に逸れるが、なぜ民主党は伊藤教授を拒否したのかがよく分からない。インフレ・ターゲット論者※であるからということかもしれないが、それが日銀副総裁として不適格と「政治」が判断できるのだろうか)。

※インフレ・ターゲット:物価水準の目標を決め、物価がその水準に近くなることを目的に金融政策を行うこと。

日本の政治再編は近い?

 さらに福田総理が評判を落としたのはここからである。武藤副総裁の昇格が否決されて別の候補に差し替えるのに、なぜかまた旧大蔵省出身の田波耕治氏をもってきた。民主党は「財政と金融を分離すべき」と主張していて、財務省出身者にはアレルギーがある。

 これまで日銀総裁人事が日銀出身者と財務省出身者のタスキがけになっていたのは「究極の天下り」とまで言われている。その意味では、国際金融にとくに強いわけでもない田波氏を福田首相が候補として挙げてきたことに、民主党が失望し呆れるのも理解できなくはない。もちろん失望しているのは民主党だけではない。「自分の政権内にも亀裂が走っている。とりわけ町村官房長官との関係はよくない」とエコノミスト誌は指摘する。

 日本の政治再編が近い、エコノミスト誌はこう読んでいるのかもしれない。その中心人物として挙げているのが、自民党の園田博之政務調査会長代理だ。園田議員は、一度自民党を離党して新党さきがけ結成に加わった。村山内閣のときには官房副長官を務めている。

 その園田氏の意中の人が与謝野馨前官房長官なのだそうだ。与謝野氏は「小泉流改革の旗手」と持ち上げているのはやや解せないところがあるが、おそらく財政改革論者であることが理由だろう。

 そしてエコノミスト誌が挙げるもう1人の立役者が小泉元首相だ。総理を辞めて以来、あまり声が聞こえてこなかった小泉前首相だが、最近は人前でしゃべるようになった。その一言にはいまだに影響力がある。実際、道路特定財源の問題についても、「総理が譲歩するように言えばそれで動くものだ」と語った。こうした一言が、「宮廷クーデター」に結びつくかもしれないとエコノミスト誌は締めくくっている。

 ここから1カ月、日本の危機的状況はますます悪化するかどうかの瀬戸際である。

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