何がしたい? 誰に愛されたい? 何も見えてこないマックカフェ小西賢明の「お客様を想え。」(2/4 ページ)

» 2008年05月08日 07時54分 公開
[小西賢明,GLOBIS.JP]

旧マックカフェ、マックトーキョー、新生マックカフェ、その目指すものとは?

 その上で。気になる業態がある。2007年8月に鳴り物入りで登場した「マックカフェ」である。日本全国に15店をオープンした、マクドナルドの新業態。「スーパーコンビニエンス」として「スピード」を、「ファーストカジュアルカフェ」として「おいしさ」と「値頃感のある価格帯」を実現するというのがコンセプト。さらに「心地よいサービス」の実現を目指した業態でもあるという。

 マクドナルドは過去、1998年に恵比寿ガーデンプレイスをはじめとした場所に、サラダ類やこだわりコーヒー、マフィンやケーキといったデザートメニューを強化した「マックカフェ」をオープンしていたが、その後、撤退。2002年に「マックトーキョー」という、都会のビジネスパーソン向けにサラダやスイーツが食べられるというコンセプトの業態も出したが、こちらもやはり撤退している。

 そして、07年8月スタートの新生「マックカフェ」。ターゲットは既存のマクドナルド各店と同じ「キッズ、ファミリー、若い世代」。「敢えてターゲットのすみ分けは行わずに、既存店とのシナジー効果を上げたい考え」(2007年8月29日、プレス発表会で原田CEO談)という。

 仮説だが、マックカフェの狙いは、既存のマクドナルド店舗が抱える以下のような課題を解消することにあるのだろう。

 まず、高効率のビジネスモデル作り。マクドナルドはそのメニューの特性上、ファストフードといえど調理が必要だ。什器への設備投資額が大きく、システム化された調理機材に加えて食材の収納場所が不可欠となるため、広い店舗面積がどうしても必要になる。地価の高い立地においては最初からデメリットを抱えているのである。また、マニュアルがあるとはいえ、従業員には一定の習熟度が要求され、ここにもコストがかかる(こちらも、人件費が高いエリアではデメリット)。しかし一方のマックカフェは、調理オペレーションがコンパクト。小さい敷地でも出店しやすく、スタッフのトレーニング期間も短く、出店までのスピードが早められる可能性が高い。

 次にターゲットの拡張。既存のマクドナルドは、幅広に狙っているとはいえ実質的には若者世代がコアターゲット。よりダイレクトにファミリー、キッズ、シニア層を狙い、客層を広げたい。マックカフェは、そのポテンシャルを持つ。

 そして新しいビジネススタイルの実現。マクドナルドがハンバーガーショップであることは社会に浸透しきっている。それを知らない人は、世の中にいない。しかし逆にいえば、それは「ハンバーガーショップ」という概念以上の存在になれない制約でもあり限界でもある。このイメージから脱却し、新しいビジネススタイルを構築するには、異業態での参入に活路を見出すのが自然。マックカフェはやはりそのポテンシャルをもつ。

 逆に言えば。これらの課題解決ありきばかりでビジネスを創ると、自己都合で顧客不在のビジネスになりかねない。深く深く考え、組織として実現したい課題解決と、顧客に求められる事業創造を両立させていく。両立させられなければ、ビジネスは独りよがりなものになってしまう。事業を創るものの最大の腕の見せどころとなるこの両立。さて。マックカフェ。どうか。

 オープンしてから間をあけて計4回、都内のマックカフェに行った。商品の写真を見てほしい。まずは「ナチュラルスープセット」(590円)。これはオープン当初からあるメニューで、店内で焼き上げた直径6センチほどのパン、スープ、飲み物がセット。少し遅れて9月半ばから登場した「マックロールセット」(640円)は、もちもちしたピタパンの皮でサンチュとソーセージを巻き込んだというスナック。それにオニオンスープと飲み物がつく(写真のカフェラテはプラス料金)。子供向けにイヌやブタの形の「どうぶつパン」もある(下の写真参照)。

 2007年8月のオープン時には、恵比寿ガーデンプレイス店には600人が並び30分待ちの行列ができた。オシャレなロゴがとても素敵そうに見える。木目を基調とした店内もちょっとオシャレ? しかし。いったいこの店、誰に対して、何がしたい? マックカフェ、誰に愛されたい?

 ベーカリーやパン、スープなどを中核とするその商品群は、既存のマクドナルド商品とは全く違う。ということは、女性会社員のランチ需要の取り込み?いやいや、食べてみると分かるが、ボリュームが中途半端で、女性がランチに食べるとしてもちょっと少ない。

 もちろん、男性のはずもない。男性会社員がスープでデニッシュ? おやつとしてブタさんのパンを食べる? それもそれである意味、素敵だが、当然そんな顧客がいるはすもない。

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