異論争論大いに結構! ものごとのオモテとウラを考える新連載・それゆけ! カナモリさん(1/3 ページ)

» 2008年05月16日 15時51分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]

それゆけ! カナモリさんとは?

グロービスで受講生に愛のムチをふるうマーケティング講師、金森努氏が森羅万象を切るコラム。街歩きや膨大な数の雑誌、書籍などから発掘したニュースを、経営理論と豊富な引き出しでひも解き、人情と感性で味付けする。そんな“金森ワールド”をご堪能下さい。

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2008年3月5日に掲載されたものです。金森氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


2月18日、イラチな世の中に思う

 遅ればせながら電波腕時計を買った。それを機に、少し「時間」というものについて雑考してみた。

 腕時計はどちらかというと、クラシカルな手巻きや自動巻きが好きで、1分2分ぐらい日によって時間が狂うぐらいの愛嬌のある物の方が好きだ。しかし、新しく作った企業研修のプログラムは、短い時間の刻みでワークの指示を出す設計にしてしまったので、ストップウォッチ付きのとにかく正確なやつが必要だったのだ。

 電波腕時計は1995年にカシオが発売したのが最初なので、今回買ったのはその末えいにあたるようだ。時間の正確さを尊ぶ国民性からか、正確な数字は分からないが、日本は世界でもダントツに普及しているらしい。大勢の人の腕で、ほとんど狂いなく、同じ時を刻む時計。それこそが価値なのだけれど、なんだか少し気持ちが悪い気もする。

 2月16日付け日本経済新聞(以下、日経新聞)朝刊の『任天堂独走は続くか(下)「捨てる発想」ヒット――次の競争相手はネット。」という記事によると、ゲーム機Wiiの快進撃を阻む物は何かというと、ソニーのPS3でもマイクロソフトX-BOXでもなく、PCや携帯電話なのだという。そしてまた、何より生活者がゲームで遊ぶことに時間を振り向けてくれるかが一番問題と、記事は報じていた。

 確かに今日の生活の中では「時間がない」ということばかりだ。ひたすらゲームに熱中する時間を取れる人も、そう多くはないだろうと思う。今のビジネスは、生活者の財布の中の可処分所得を取り合うのではなく、“可処分時間”の取り合いなのだから。

 とはいえ、もう少しだけ誰しもゆとりを持って暮らせないかと考えてしまう。

 最近、電車やエレベーターを降りるときなどに感じるのだが、昔より乗り込んでくる人のタイミングが早くなっていないだろうか。まだ動作が鈍くなるほど老いてはいないので、確かに早くなっているのだと思う。降りる人がきちんと全員降りてから乗る。幼稚園で習うことだ。「待てない」人が増えているのではないだろうか。世の中からどんどんゆとりが消えているように思う。

 「トリビアな大阪弁」と題されたブログで面白い記事を見つけた。

 それによると、大阪弁では忙しい、落ち着かないを表わす「せわしない(忙しない)」を状況に応じて、「せわしない(忙しない)」、「イラチ(苛ち)」という2つの言葉で言い分けているようだ。その2つの違いは、「イラチは、体はここにあっても、気ぃがここにない人。せわしないは、ちゃんと話は聞いてくれる」だそうだ。何やら、最近の忙しない世の中の正体は、実は「イラチな世の中」なのではないかと思う。どんなに忙しくても、人の話をきちんと聞くゆとりだけは無くさないようにしたい。

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