第12話 さっぱり VS. トロミ? 試作品の作り方Webビジネス小説「中村誠32歳・これがメーカー社員の生きる道」(1/3 ページ)

» 2008年11月13日 12時15分 公開
[眞木和俊,Business Media 誠]

この物語は……?

 中村誠、32歳。静岡県出身、東京の中堅私立大学を卒業し、彼女いない歴3年。加工食品メーカー「アイティフーズ」に入社してちょうど10年目を迎える中堅社員です。誠が社会人として働いてきた10年間は、日本経済が停滞し“失われた10年”といわれた時代。年功序列制度が成果主義に代わり、後輩が入らず今までずっと下っ端として働いてきた誠も、そろそろ「中堅社員」と呼ばれる年代になってきました。

 これまでマネジャーとすら呼ばれたことがない誠は、ある日突然、社内プロジェクトのリーダーに登用されます。ビジネスリーダーの心構えとは? 部門横断型のプロジェクトを成功させるコツとは? 本連載では小説形式で、誠が奮闘しながら成長していく姿を描いていきます(登場人物一覧は記事の最後にあります)。


 高濃度イソフラボンを使った新商品開発プロジェクト。中村誠たちプロジェクトメンバーは、予備調査を終え、本調査に入っていた。本調査は引き続きパネル分析を用い、1000名を対象とするWeb調査と200名へのヒアリング調査を行うものだ。

 本調査の実施期間中、プロジェクトリーダーの中村誠は、自分が参加した“試作品検討チームの坂口賢二や仲居貴一と、新しい飲料についてかんかんがくがくの議論を繰り広げていた。

仲居 この前も言ったけど、飲み物なんだから中身で勝負できないとお話にならないわけだ。だから、あのパネル分析結果では、どうにも納得いかないぞ。

 仲居先輩のおっしゃることはもっともです。ただ、予備調査段階では仮説を導くことが目的だったので、簡易な“パネル分析”を使いました。そのおかげで、みんなの時間とお金を節約できたはずです。

坂口 でもさ、誠。東山部長が言ってた「大豆イソフラボンの効能と安全性」はどうやってお客様に説明するつもりなんだ? 今までも会社のWebサイトなどでその必要性や安全性を紹介してきているけど、まだ足りないということなのかな。

 そのことはよく考えないといけないんだ。ウチの商品全般の安全性というと、“無農薬原材料”“遺伝子組み換えしていない原材料”そして“原材料と製品のトレーサビリティー※”だよね。新商品では、さらにイソフラボンの摂取量上限まで明記するんだよ、多分。

※トレーサビリティー…食品の安全性を確保するために、原材料の栽培・飼育から加工、流通などの過程を明記し、追跡できる仕組み(ができている状態のこと)

坂口 ちょっと待てよ、前にも言ったように技術的な目玉はイソフラボンの高濃度化なんだからな。それに“骨の健康維持製品”という名目で特定保健用食品(トクホ)指定を申請できるだけのデータも用意してあるんだから、高機能性は十分説明できる。個人的には摂取量の上限にもあまり意味はないと思うんだが。

仲居 話の邪魔をしてすまんが、まず「おいしくて、飲みやすい」ということが大前提じゃないのか? 自画自賛するつもりはないが、ウチの定番「豆乳ちゃん」がヒットした理由は、水戸工場で調整した味付けと香りにあるんだ。できたての豆乳の風味を残して、さっぱりと飲めるようにしたからうけてるんだ。言っちゃ何だが、こういう意外性は、理論先行型の開発部の連中には思いつかないわけだな。

坂口 ええ、そうですとも。でもそんな現場の“まぐれ当たり”が何度も繰り返すとは限りませんよ。

 まあまあ、2人ともそうムキにならないで落ち着いてくださいよ。残念ながらパネル分析では味も風味も体験できませんから、試作品を使ったモニター評価は必須だと思います。ただし、消費者調査の時と同じく評価方法にはひと工夫が必要でしょうね。

坂口 というと、何かうまいアイディアでもあるのかい?

 いや、試作品の設定条件を工夫すれば、パネル分析みたいな組み合わせ実験ができるんじゃないかと考えてるんだ。

仲居 でもどうやって条件の、あの“レベル”とやらを決めるつもりなんだ? 味みたいな感覚を定量化するのは相当難しいぞ。

 そうなんですよねえ……。でも、パネル分析の条件に入れた「粘度」とかなら、ウチでも測定できますよ。

坂口 風味や口当たりの要素には、我が飲料開発部の測定装置で測れるものもいくつかあるしな。よし! ここまで科学的に分析してきたわけだし、試作品開発もこのアプローチで頑張ってみよう。

仲居 お前らがそういうなら、別に止めないけどな。でも最後の最後には現場の職人技も必要になるんだってことは忘れるなよ。

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