誠 パネル分析ではお客様にそこまで伝わらなかったんじゃないかと思います。……ということで、改めて試作品の種類を粘度と風味で分けるとしたら、こんな感じじゃないですか?
誠はそう言いながら立ち上がると、手近のホワイトボードに試作品のイメージを書いた(右図)。
坂口 今思い浮かんだんだけど、もし新商品をまったく新規の健康ドリンクだと考えたら、無香料のスポーツドリンクタイプもありうるよな。
誠 う〜ん、そうだね。一応書いておこう。
仲居 だけどスポーツドリンクタイプだと用途や用量が違ってこないか? 今回は消費者調査結果から「紙パック100ミリリットル」と決めたはずだ。渇きを癒やしたり、ガブ飲みするような感じじゃない。
誠&坂口 確かに。
誠 では仲居先輩のご意見に賛同して、これは評価しないことにしましょう。
坂口 これで方向性が決まったので、開発部で作った今までのレシピも見ながら、4種類の評価用試作品を調合してみます。ところで、ご協力いただくモニターはどうする、誠?
誠 まずは社内で予備的に評価してもらおうと思うんだ。それから小栗さん、山口さんにも相談して、消費者調査の時に協力してもらった皆さんに再度ご協力いただけるか聞いてもらおう。
仲居 あれだけ数字が不得意だった誠が、最近じゃ定量分析がお手の物みたいだしな。変われば変わるもんだ、まったく。
誠 おかげさまで、少しは成長したみたいです。
坂口 いや、まだ安心するのは早すぎるぞ。これでモニター評価結果が悪かったら、また一から出直しなんだからな。しっかり覚悟しとかないと。
誠 そのときは仲居先輩の職人技に頼るしかないって(笑)。
こうしていよいよプロジェクトも大詰めに差しかかり、最終的な方向性を定めていく中で、誠は改めてリーダーの責任をひしひしと感じ始めていた。(第13話に続く)
中村誠君と同世代の読者の皆さんは、ご自身が職場で“ベテラン”と呼ばれるには少し若い世代。先輩たちの貴重な経験と直感をぜひうまく引き出して活用する術を身に付けていただきたいと思います。
とはいえ、「新人でもないのだから先輩からは直接聞きにくい」ということであれば、ブレインストーミングなどで貴重なノウハウを引き出すようなファシリテーション※を積極的に行ってはどうでしょうか。言い換えると、自分の引き出しを増やすために、先輩たちの引き出しを開けにかかるのです。
もちろんその中身が自分に合う/合わないの取捨選択は必要ですが、「ちょっとした“コツ”でも教えてもらえればもうけもの」ぐらいのつもりでチャレンジすると、先輩から吸収できることは意外にたくさんあると思います。
※ファシリテーション…会議の場などで、発言を促したり、整理したりしながら司会進行を行い、うまく参加者の意見を引き出し会議を活性化すること。これを行う、会議の司会進行役の人をファシリテーターという。詳しくは連載第3話を参照のこと。
ジェネックスパートナーズ取締役会長。ゼネラル・エレクトリック(GE)で、シックスシグマによる全社業務改革運動に、改革リーダーのブラックベルト(専従リーダー)として参加後、経営コンサルタントに転身。
2002年11月、お客様とともに考え、ともに行動するパートナーとしての視点から、お客様の成果実現のために企業変革を支援し、事業価値向上に貢献するプロフェッショナルファーム「ジェネックスパートナーズ」を設立。日本企業再生を目指して、企業変革活動の支援を推進している。著書に『図解コレならわかるシックスシグマ』、『これまでのシックスシグマは忘れなさい』などがあり、中国、韓国、台湾等でも翻訳出版されている。
「誠」世代が“自立する=自ら考え正しく行動できる”ことが、今後の日本経済を支えるといっても過言ではありません。社会に出たビジネスパーソンとして自立するためのきっかけは誰にでも必ずありますから、そのチャンスに果敢にチャレンジしてほしいと思います。
しかしその際、気合と根性だけでは徒手空拳も同然。本連載でご紹介するようなビジネスリーダーとしての心構えと基本動作を身に付けておいたほうが無難でしょう。これらは難しく考えるのではなく、実際に試してみることが大切です。
本連載の主人公・誠は、おっちょこちょいではありますが、好奇心と向上心を持ち合わせたがんばり屋です。誠のように『天は自ら助くるものを助く』の精神でプラス思考で臨んだリーダーこそが、最後にはきっと生き残るのです。
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