オンナ心をわしづかみ!? ソニーのVAIO type Pそれゆけ!カナモリさん(1/3 ページ)

» 2009年01月16日 15時35分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]

それゆけ! カナモリさんとは?

グロービスで受講生に愛のムチをふるうマーケティング講師、金森努氏が森羅万象を切るコラム。街歩きや膨大な数の雑誌、書籍などから発掘したニュースを、経営理論と豊富な引き出しでひも解き、人情と感性で味付けする。そんな“金森ワールド”をご堪能下さい。

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2009年1月16日に掲載されたものです。金森氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


1月6日 富士Q・ひらパー:思わず行きたくなる遊園地CMに学ぶポジショニング

 ポジショニングは、ターゲット顧客のアタマの中に、自社製品について独自のポジションを築き、ユニークな差別化イメージを植えつけるための活動だ。顧客のアタマの中に、自社の商品やブランドの魅力を明確に描けるか、競合と比べて優れているように認知してもらうか、という点が勝負のポイント。その魅力の明確化や競合優位性を表すために、マーケティングのフレームワークである「ポジショニングマップ」が用いられる。

 自社が打ち出したい魅力を2本の軸で表し、4つの象限で説明するポジショニングマップ。例えば、自社の商品が「価格が安い」にもかかわらず、「多機能」である、というような魅力を打ち出したい場合、X軸を価格の高←→低、Y軸を機能の多←→少とするマップを作れば、「安くて多機能」という象限に位置することが非常に分かりやすくなる。

 特に企画を練るとき、ポジショニングマップは効果的だ。商品開発や広告宣伝の制作などの際にも、上司やクライアント、社内外のスタッフへの説明と合意形成には大いに活躍する。

 もちろん、このマップが顧客向けの商品パンフレットや広告で説明的に掲載されることはありえない。ありえないのだが、マーケティング企画を考えているときなど、つい、ポジショニングマップを描いて安心してしまうことがある。しかし、当然ながらポジショニングとは、ポジショニングマップを描くことが最終目的ではない。

 ポジショニングで重要なこと。それは、その意味するところが、「本当に魅力的なコトバまで昇華されていること」にある。

 例えば、BMWには、世界共通のポジショニングを表す言葉、「究極のドライビングマシン(日本語訳)」がある。このポジショニングが日本では、「駆け抜ける喜び」という名コピーで表現されている。

 「移動手段としての車」とは一線を画す、明確な「(スポーツ)ドライビングを目的とした車(マシン)」であるというポジションの示し方。そして、コピーではそのマシンを手に入れれば、単に「車で走る」だけではなく、「駆け抜ける喜び」をもたらしてくれるという約束を語っている。

 ポジショニングマップをつくって安心するのではなく、「真にターゲット顧客に魅力が伝わるコトバまで、コピーの手前まで落とし込む」という作業が、実践的なマーケティング現場では欠かせない。そしてもう一歩先もある。コトバだけではなく、商品やサービスの「世界観」を通じて、ポジショニングを示すのだ。

 日本の東西を代表する遊園地の、以下の2つのCMを見てほしい。

 富士急ハイランド 「ええじゃないか桃太郎編」

 ひらかたパーク 「キャラクター“ピピン”シリーズ」

 東の富士急ハイランド(通称・富士Q)、西のひらかたパーク(通称・ひらパー)、どれだけディズニーリゾートがきらめこうが、どれだけユニバーサルスタジオが華やごうが、まったくどうでもよいと主張するかのような見事な世界観が伝わってくる。

 ディズニーのポジショニングが、「夢と魔法の王国」であるということは、ほとんどの人々に伝わっているだろう。ユニバーサルスタジオに行けば「ハリウッド映画の体験」ができることも広く知られている。東西の両雄は、有形・無形の“テーマパークとしての世界観”の構築と実現には、とてつもない予算をかけている。

 しかし、富士Q、ひらパー、2つの遊園地は、まぎれもなく遊園地。テーマパークではない。あえて、コトバにするなら、「とてつもないライドでの体験」を約束する富士Q、「キャラクターが導く、日常的な非日常」となるのではないだろうか。

 全国各地にある遊園地。「テーマパーク」と称してはいるものの、実質的には「ただの遊園地」であるものも多く、経営的に苦戦しているところも多いと聞く。どこでも、似たようなライドが設置され、同じようなイベントが繰り返されているのだろう。富士Q、ひらパーも遊園地である以上、それらと類似点があるのは否めないだろう。

 しかし、そのオリジナリティー溢れるポジショニングと、ターゲット顧客(来場者)に対し、期待させるものの明確さは見事だと言えるだろう。

 長引く景気の低迷によって、モノもサービスも売れなくなっている。その魅力を明確に伝えることができなければ、市場からの退場を余儀なくされるのは間違いない。そのためには、単なる経営学のフレームワークをいじくるだけでなく、明確なコトバに変え、さらに世界観まで落とし込むことが必要なのだ。

 マーケティングの大家、フィリップ・コトラーは「セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング(STP)」という、マーケティング戦略策定の要諦となるステップの総仕上げとして、また、マーケティング戦略全体の流れの中で、「ポジショニング」は最重要事項であると明言している。自社のポジショニングは明確か。魅力は伝わっているか。顧客をその世界観にまで巻き込むことができているのか。もう一度見直してみることをお勧めしたい。

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