グロービス経営大学院でベンチャー戦略の教鞭を取る岡村勝弘氏による連載。事業創造、変革の特筆すべき事例を取り上げ、ビジネススクールなどで学ぶフレームワークを用いながら、独自の視点で、そこから得られる学びを詳説する。
※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2008年9月26日に掲載されたものです。岡村氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。
戦後日本において大成功を遂げた企業の代名詞であるホンダ(本田技研工業)は、1986年より航空機の研究開発を始め、2006年10月に、「HondaJet」という名称で、小型ビジネスジェット機の受注を始めた。“まるでパンケーキのように売れていく”好調さで、わずか3日で100機を超える受注を獲得※。2010年に受け渡しを予定している。
ホンダは、日本有数の自動車メーカーであるが、1948年の創業時はオートバイを事業ドメインとし、現在も世界1位のバイクメーカーである。1963年に自動車事業に参入、現在は、発電機、耕運機、船外機なども手がけている。2008年3月期の売上げは12兆円、営業利益9531億円(営業利益率7.9%)。研究開発には売上高比4.9%にあたる5880億円を投じている。
ここで、まず、航空機産業の構造について概観してみよう。
民間に使用される航空機の市場規模は2008年現在、約9兆円、2027年には17兆円程度になると予想されている※。市場のけん引役として耳目を集めているのは、座席数20席以下の超小型ビジネスジェット機(Very Light Jet、以下VLJ)と呼ばれるカテゴリー。20年後には全世界の保有機数4万を超える一大勢力になる※とも目されている。
市場のプレイヤーは、さほど多くはない。特に、座席数100を超える、中・大規模の航空機を製造する企業は再編を繰り返し、現在ではボーイング社とエアバス社の2社に集約されている。一方、100席未満の小型機市場は、1990年代からの新規参入が目立つ。1986年にカナダのボンバルディア社が参入、ブラジルのエンブラエル社も1994年の民営化以来、気を吐いている。このほか、日本からは三菱重工が座席数70〜90のリージョナルジェット「MRJ」を発表、中国、ロシアも開発にしのぎを削っている。
これらに加え、2006年に登場したのが先述のVLJと呼ばれるカテゴリーだ。企業や一部富裕層を中心に、まず米国から市場が急拡大するとみられている。ホンダのHondaJetは、このカテゴリーに含まれる。
中でも注目されるのは、米国ニューメキシコ州アルバカーキに所在するエクリプス・アビエーション社※。マイクロソフトの経営メンバーだったヴァーン・ラバーン氏が設立したことでも知られ、低価格の新型ジェット機「Eclipse500」に注文が殺到しているという(関連リンク)。エクリプス・アビエーションの設立は1998年。2003年にカナダのジェットエンジンのメーカー、プラット・アンド・ホイットニーから「PW610F」ジェットエンジンの供給を得て、2006年にFAA(Federal Aviation Administration、連邦航空局)の承認を獲得。2007年1月には最初の納品を実現している。
一方、ホンダは、1993年に世界初の全複合材製ビジネスジェット実験機「MH02」の初飛行に成功。その後も自社製ターボファンエンジンの改良と並行して、翼や胴体などにホンダ独自のテクノロジーを盛り込んだ低燃費で高効率の機体の研究を進め、従来機と比較して燃費、キャビンの広さを格段に向上させた新しいコンセプトの小型ビジネスジェットHondaJetを開発。2003年12月には、ターボファンエンジン「HF118」を搭載し、米国において世界的にも前例の少ない自社製エンジンと自社製機体の組み合わせによるビジネス機の飛行試験を開始した。
なお、その後の2004年10月には、GEと(ホンダ エアロ インクとの)50対50の資本比率で GE Honda エアロ エンジンズ社を設立。両社のノウハウを取り入れた新エンジン「HF120」を開発している。
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