愛読書は? と聞かれ、この3冊を挙げた理由山崎元の時事日想・出版&新聞ビジネスの明日を考える(2/3 ページ)

» 2009年03月05日 07時00分 公開
[山崎元,Business Media 誠]

 『読書について』でショーペンハウエルは、読書とは他人の思考の跡をたどることに過ぎないのであって、自分で考えることが重要だと説いている。まず、この意見に大いに賛同する。そして実は、もう一点影響を受けた箇所があって、それは匿名の批評に対する鋭い批判だ。

 匿名で行う批評がいかに卑怯で下らないものであるのかについてショーペンハウエルは口を極めてののしるのだが、この本を初めて読んだころに、ペンネームの原稿を何本も書いていた筆者にとってこの意見はこたえた。金融機関で働きながら金融政策の批判を書くというときは、会社の都合上、匿名の場合がある。一般論としても、「匿名」でなければ発表されない意見にも価値がある場合はある。しかし意見を言う以上は本人が名乗り出なければ卑怯だ、という見方には説得力があった。後年、意見はできれば実名で言いたいと思うようになって、実名で原稿を書くようになったのだが、そこには明らかにこの本の影響がある。

フリードマンの『資本主義と自由』は経済学に関する発想の宝庫

 ミルトン・フリードマンの『資本主義と自由』も思い出深い本だ。この本は、高校3年生の正月に札幌市内の書店で見つけて、入試の「政治経済」対策でというような軽い気持ちで読んだのだ。だが、同じく受験勉強のついでに読んでいたP.A.サムエルソンの「経済学」のテキストと書いてあることが随分違うのが新鮮だった。共にノーベル経済学賞の受賞者だったので、「ノーベル賞受賞者同士の意見がこれだけ違うのだから、経済学はまだまだこれから面白そうだ」と思って、入試では経済学部に進むコースを受けることにした。

 フリードマンは『選択の自由』というベストセラーもあるが、若いころに書いた『資本主義と自由』の方がキレがいいように思う。この本は経済学に関する発想の宝庫で、教育クーポンや負の所得税など、後に政策として検討されるようになったアイデアが既にいくつも提示されている。近年「新自由主義」という言葉とともに、フリードマンは弱者に冷たい悪人のように言われることがある。

 しかし自由な市場を生かしながらも弱者を救済するにはどうしたらいいかという問題を考え、さらに実際にアイデアを出したことについては、なかなか立派なものだ。筆者が読んだ『資本主義と自由』の翻訳は、マグロウヒル好学社から出た熊谷尚夫監訳のものだったが、昨年、日経BP社から日経BPクラシックスのシリーズの1冊として村井章子さんによる新訳が出た。

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