ヒット商品開発の手柄は誰のもの?川上慎市郎の“目利き”マーケティング(2/2 ページ)

» 2009年03月09日 12時47分 公開
[川上慎市郎,GLOBIS.JP]
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ヒット企画を「手柄」にしたがる経営者の重大な誤り

 それよりももっと深刻な問題だと思うのは、「成功させたい」という経営者の思いが行き過ぎて、あるいはもっと別の政治的な理由から、現場が一生懸命作ってヒットさせた商品を「あれは私がアイデアを出してやらせた企画だ」などと自分の手柄にしようとする経営者が時々いることです。

 現場が一生懸命ひねり出したアイデアに、会議でちょっとアドバイスしたり、「やってみろ」とゴーサインを出しただけなのに、さも自分がすごく重要な決断をしたかのように勘違いしてしまう。たとえ実際に自分がアイデアを出して、それがヒットを実現したとしても、こういう発言をする経営者は、もはや“経営者失格”のレベルと言っても良いだろうと思います。

 新商品の開発とマーケティングを成功させるためには、アイデアを出したり企画を立てたりする段階の知恵だけでなく、実行段階の現場の努力が不可欠です。その中には例えば、社内外のボトルネックとなる部分を見つけてそれを乗り越えるために関係者を必死で説得したり、事業計画を製造から営業までの現場のオペレーションにきっちり落とし込んで実行させるために汗を流したり、部門間の激しい利害のぶつかり合いにも「顧客にこの商品を届けたいから」という気持ちで耐え忍んだりといった、日の当たらない行動や見返りのない協力などが含まれます。

 従って、新商品の成功の賞賛はまず一義的に、実行に汗を流したすべての現場の人間に対してなされるべきですし、そうした賞賛を得られることにより、クリエーターや技術者や営業マンといったすべての人々が「成功のためにはチーム全員が力を合わせることが大事だ」ということを学習し、成長していくのです。この学習、成長がなければ、いかなる組織も連続して成功・成長を遂げることなどできません。

 つまり、新商品開発というのは、現場レベルで見ればその成功・失敗という「結果」だけでなく、人材と組織が成長していく「プロセス」としての重要性が非常に重いということが言えます。挑戦→格闘→達成→賞賛→さらなる挑戦……と続く成長のサイクルの「賞賛」だけを横取りしようとする経営者は、その意味では新商品開発に伴う経営リスクを気にしすぎるあまり、本来その営みによって達成すべきものを取り違え、かえって現場の組織力を衰弱させているとすら言えるのではないかと思うのです。

 新商品開発や企画というもののマネジメントがうまく回らない根本的な原因に、経営者と現場の間にその意義をどこに見出すかという視点の違いがあるということを述べました。次回は、こうした問題の所在から示唆されるジレンマの脱出方法について、少し考えてみたいと思います。

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