「おいしい」ならぬ「巧い!」――モスのとびきりハンバーグサンドそれゆけ!カナモリさん(1/6 ページ)

» 2009年03月16日 10時42分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]

それゆけ! カナモリさんとは?

グロービスで受講生に愛のムチをふるうマーケティング講師、金森努氏が森羅万象を切るコラム。街歩きや膨大な数の雑誌、書籍などから発掘したニュースを、経営理論と豊富な引き出しでひも解き、人情と感性で味付けする。そんな“金森ワールド”をご堪能下さい。

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2009年3月13日に掲載されたものです。金森氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


3月2日 「世界のKitchenから」のマーケティング整合性に学ぶ

 JR東京駅構内のコンビニ「NEWDAYS」。先日ふらりと立ち寄ってみると、飲料棚で一気に7フェースを確保している飲料があった。キリンビバレッジの「世界のKitchenから とろとろ桃のフルーニュ」。昨今のゼロカロリー、お茶ブームの中で、ひときわ異彩を放っている。いったいどんな戦略が裏側にあるのだろうか。

 「とろとろ桃のフルーニュ」は2009年2月17日に、昨年3月以来の商品リニューアルをした。「煮こんだ桃とマンゴーを増量し、ますますとろとろおいしく贅沢になりました」とうたい、新発売時以上に力を入れた展開をしている。

 「世界のKitchen」の共通コンセプトである「世界の母さんがつくる料理からインスピレーションをうけたレシピ」という独特の仕上がり。「桃のフルーニュ」は乳原料を用いているので、乳酸飲料に似ていて、フルーツカルピスやヤクルトの一種にありそうな味ではあるものの、そのどれとも違う。

 商品の独自性は根強いファンを生んでおり、そのクチコミを促進すべく専用のWeb「セカキチ ファンクラブ」まで作られている。「世界のKitchen」の世界観が音と映像で丁寧に表現され、ファンのクチコミやレシピの元になった国の市民の感想が読める。

 桃のフルーニュではハンガリーの街角で拾った感想が紹介されているが、みなが口々に言うメッセージは1つ。「うまい」。

 飲料は常に新しい商品が販売されているが、「とにかくおいしい」というイメージを持つ商品が思い浮かぶだろうか。例えて言うならアイスクリームのハーゲンダッツのような。恐らくないだろう。

とろとろ桃のフルーニュ

 昨今の飲料市場における動きは、「緑茶カテゴリーの成熟〜衰」」と「炭酸飲料の伸長」が特徴だ。「緑茶戦争」ともいわれ、多数のバリエーションや高級ラインの展開など、さまざまな工夫がなされたが、消費者の嗜好は「ゼロカロリー」の登場によって炭酸飲料に流れた。

 当たり前のようだが、市場にはもともとノンカロリーであるお茶や、甘みがあるがゼロカロリーの炭酸飲料を求めるセグメントだけが存在するわけではない。カロリーよりも、飲料としての「味わい」を優先する層も確実に存在する。

 しかし、紅茶や果実、乳飲料などのカテゴリーはメインストリームではないため、目新しい商品はあまり開発されてこなかったと言える。

 そこをキリンビバレッジはついた。

 「カロリー優先ではなく、おいしい飲み物が飲みたい」という層の「ニーズギャップ」を「世界のKitchen」シリーズは独自のポジショニングと世界観ですくい取ったのだ。

 世間の大きな流れに惑わされず、顧客のニーズをしっかりと見極める。マーケティングの基本に立ち返り、これほどまでに明確にポジショニングした飲料系商品、見当たらない。

 しかも、売り方もうまいのだ。ポジショニングをうまく生かした施策がとられている。

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