右脳型銀行マンが左脳を使って物流を変えた――プラス ジョインテックスカンパニー 伊藤羊一さん(3/4 ページ)

» 2009年05月13日 07時00分 公開
[GLOBIS.JP]

「世のため人のためのカリスマになる」

 そんな伊藤さんにとって、「まず、何を考えるべきかを考えましょう」から始まる「クリティカル・シンキング」のクラスは衝撃だった。学ぶごとに思考のスピードが速まる。前日にクラスで仮想体験したことが、次の朝には実践で生きる。物流センターのシステム開発に苦しんだ時期、物流クレームの多発という課題を、クラスでの学びを生かして整理し、解決の糸口をつかんでみせた。針のむしろに座る想いで出社していた時期だけに、「クリシン(クリティカル・シンキング)に救われた」との想いは強い。

 それからは、「マーケティング」「経営戦略」「オペレーション戦略」「人的資源管理」……と、何かにつかれるように受講を進めていった。どれほど忙しくても、学ぶことだけは止めなかった。そうするうちに、「長く物流の世界にいる人のようには、プロセスの詳しい中身は分からない。でも、インプットとアウトプットを指針に、問題を探し、解決への端緒をつける力はある」と、何か吹っ切れるものがあった。物流のプロ集団における、自らのポジションが明確になった。

 2007年からは、マーケティング企画部長に転進。教育機関を対象に通販事業を展開するプラスグループの教育環境事業本部と、ジョインテックスの統合も進めた。両事業は販売に携わる文具店など共通項が多く、親和性が高いにも関わらず、データベースも物流も別々。統合すれば効率性は高まるが、グループ内とは言え、両者の組織文化はまるで異なる。

 反発を一身に背負う覚悟で「一緒にやろう」と声をかけ、2008年5月、統合を実現させた。今の肩書きは、オフィス用品ソリューション企画部長、兼事業統合室長、兼秘書室特命担当……。週に数回オフィス隣のウィークリーマンションに泊り込むほど、奔走する毎日が続く。

 こうして走り続ける先に何があるのか……。医者や芸術家といった職業の人と異なり、何か具体的に心に決めたキャリアがあるわけではない。ただ、「夢は何か」と問われたら、「総理大臣」と答える。「同じ働くんだったら楽しく働いた方がいい。どうせ生きるんだったら気持ちよく暮らせる社会作りに役に立っていきたい」。人生に対する立ち位置を突き詰めると、政治家に行き着いてしまう。

 1990年4月。バブルで沸いた日本経済が傾き始めた頃に興銀に入った。銀行マンに憧れていたわけではない。当初は「バラエティー制作の仕事がしたい」と、テレビ局を目指していた。興銀はいわば記念受験。ところが、「仕事は世のため人のため」「国家を論ずることなく、何が仕事だ」と、真剣に語る興銀マンの熱さに心酔した。

 娘の明日香ちゃん(2)が生まれてからは、「大きくなったらパパの日に似顔絵を書いてくれるかな。この子が大人になったときの社会は、良いものなのだろうか。幸せでいてほしいな」。そんな風にも考えるようになった。娘の寝顔を見ていると、「パパが、良い社会にしてやるからな」との想いがこみ上げ、思わず涙がこぼれることもある。

 「俺、Jリーグの三浦カズと同い年なんですよ。カズは日本のヒーローだけど、俺も世のため人のためのカリスマになってみせる」。より多くの人の幸せのために、そして何より明日香の幸せのために……。最終ゴールを決め、最高の男泣きができるその日まで。キャリアの後半戦は、まだキックオフの笛が鳴ったばかりだ。

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