珍商売「講義ノート屋」凋落に見る、大学全入時代の病(1/3 ページ)

» 2009年06月12日 08時28分 公開
[中村修治,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:中村修治(なかむら・しゅうじ)

有限会社ペーパーカンパニー、株式会社キナックスホールディングスの代表取締役社長。昭和30年代後半、近江商人発祥の地で産まれる。立命館大学経済学部を卒業後、大手プロダクションへ入社。1994年に、企画会社ペーパーカンパニーを設立する。その後、年間150本近い企画書を夜な夜な書く生活を続けるうちに覚醒。たくさんの広告代理店やたくさんの企業の皆様と酔狂な関係を築き、皆様のお陰を持ちまして、現在に至る。そんな「全身企画屋」である。


 大学を5年かけて卒業した私は、ほんとにダメダメ学生であったと思う。授業に出ていないから単位をとるにもひと苦労。友達と言えば、全員が学校に行っていない奴ばかり。講義ノートを借りることもできず、試験の度に四苦八苦したものだ。その時代に「講義ノート屋」があれば、私は間違いなく常連だっただろう。しかし、その珍商売にも氷河期が訪れているというニュース「『講義ノート屋』に氷河期――京阪神の大学で“閉店”続出」(朝日新聞社サイト、2008年10月3日より)が流れた※。

※編集部注)記事リンク先を追加しました。

 以下、朝日新聞社サイトより引用。

 「きちんと大学の講義に出た人のノートを1、2万円で買い取り、その写しを1部数百円で売る。こんな学生相手の「講義ノート屋」に逆風が吹いている。学生の「まじめ化」やノートの質の低下が原因だ。大学の視線も厳しくなり、一部の繁盛店をのぞき、次々と倒れている。(市原研吾)

 約1万8千人が通う立命館大衣笠キャンパス(京都市北区)。東門から約30メートルの建物の1階に人気の講義ノート屋がある。学生がカウンターで講義名を告げると、店員が奥に取りにいく。夏の前期試験直前には、約40人が入店待ちの列をつくった。

 試験シーズン恒例の風景だが、今年はちょっとした「事件」が起きた。黙認してきた大学が試験に合わせ、利用自粛を求める教学部長名のメールを全学生に出したのだ。

 「大学での学びは誰のためにあるのでしょうか。授業に出席することなく、『講義ノート』に頼ろうとする試験対策は安易であり、本末転倒です」

 だが――。自粛令が出たあとの昼休み、店頭に「ノート販売30周年&店舗改装を記念して、300科目すべてが通常価格1冊700円のところ300円!」というチラシが置かれていた。それ目当てか、相変わらず学生が店に吸い込まれていく。

4回生の男子は「大学が禁じたいのはわかるけど、単位を落としたら元も子もない」。3回生の女子は「出席していてもわからない講義があって」と話した。

 一方のノート屋は、「取材はいっさいお断り」だ。

 近年、こんな繁盛店は珍しく、閉店が相次ぐ。

関西では数十年前から存在し、印刷会社などが営んでいた。「関関同立」「産近甲龍」と言われる有力私大の周辺にはどこにもあったのに、近畿大(大阪府東大阪市)は5年ほど前、それより前に関西大(同吹田市)、甲南大(神戸市東灘区)で姿を消した。関西学院大(兵庫県西宮市)でも2年ほど前になくなった。いまも残っているのは、立命館大、同志社大(京都市上京区)、京都産業大(同北区)、龍谷大(同伏見区)などだけだ。

 冬の時代を迎えた理由について、大学関係者は「就職氷河期」を迎えた10年余り前から、学生の講義への出席率があがったことを挙げる。就職のために、単に単位をとるだけでなく「優」の数を増やそうとする学生が目立つようになったうえ、出席をとる講義も増え、写しを買う必要が薄らいだのだ。

 ノートの質の低下を挙げる人もいる。かつてノート屋に店の一角を貸していた関西大前の文具店経営者は「以前は口頭で説明した内容や試験に出そうなポイントも書き込まれていたが、板書を写しただけのものが増えていた。お金を出すには物足りない内容だった」と話す。」

 引用ここまで。

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