鳩山政権誕生と政治部記者のメモがなくなる関係相場英雄の時事日想(1/2 ページ)

» 2009年09月03日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『ファンクション7』(講談社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 奥会津三泣き 因習の殺意』(小学館文庫)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 佐渡・酒田殺人航路』(双葉社)、『完黙 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 奥津軽編』(小学館文庫)、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載


 先の総選挙で自民党が歴史的な大敗を喫し、民主党が政権を担うことになった。政情の先行きなど詳報は他稿に譲るとして、今回は筆者なりの斜に構えた視点で政権交代を分析してみたい。

 次期鳩山政権は、メディア対応としてフリーランスの記者や雑誌などにも門戸を開放する「オープン型」を志向している。これが実現すれば、大手紙やキー局など既存メディアにとっては体質改善の一大好機であるのは間違いない。だが改善を果たせなければ、メディアは自民党のように自壊の道をたどると筆者はみる。

一番困惑しているのはマスコミ

 「民主党に擦り寄る霞が関」――。

 総選挙の半年ほど前から、こんな論調の記事を目にした読者は多いはずだ。政権交代が現実味を帯びるにつれ、自民党一辺倒だった官僚たちが民主党との距離を縮め始めた、という主旨だ。

 官僚が新政権との関係作りに四苦八苦しているのは事実だが、実は一番困惑しているのが、こうした官僚たちの動きを伝えたマスコミ自身だろう。なぜなら、日本のメディア界で最も閉鎖的な記者クラブ制度が残っているのが永田町だからだ。

 大手紙や通信社、あるいはテレビ局の政治部記者のヒエラルキーは、首相官邸をカバーする「官邸クラブ」、かつての与党・自民党を担当する「平河クラブ」が頂点で、その次に野党第一党をみる「野党クラブ」、そのあとは他の野党をカバーするクラブと続く。現在、大手メディアの経営陣の多くが、官邸・平河両クラブのキャップを経ていることを勘案すれば、官邸や平河を経験することが記者の出世コースであることは明白だ。

 官僚と同様、政権交代が視野に入ったころから大手メディア各社は対応を進めてきたが、「民主党政権にどう対応するのかはいまだに手探りの状態で、他社の動向を観察中」(大手紙政治部記者)と言える。なぜなら、メディアの経営に携わる幹部自身が「民主党との距離感をつかみかねている」(同)からに他ならない。換言すれば、メディアの現経営陣が出世の足がかりとしてきたヒエラルキーが、総選挙の結果とともに音を立てて崩れてしまったのだ。

 あるメディアの実状を披露しよう。幹部の肩書きを持つベテラン政治記者が現場の野党クラブに頻繁に電話を入れ、民主党の党内情勢をヒアリングしている。このベテラン政治記者は、民主党の一部幹部との折り合いが極めて悪いことで知られ、自身で直接情報を取ることができないからだ。吸い上げた情報をもとに、このベテラン政治記者は頻繁にテレビに出演中。したり顔で同党の内情を語る姿は、相当にイタい。

 これほど酷い状況ではないにせよ、メディア各社の幹部連、特に政治部出身者は慌てている。その原因の1つに、閉鎖的な記者クラブ経由で上がってきた「メモ」が、今後はあまり意味を持たなくなる公算があるためだ。

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