JR東日本の自販機に、隠されたある特徴とはそれゆけ! カナモリさん(1/2 ページ)

» 2009年09月25日 10時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]

それゆけ! カナモリさんとは?

グロービスで受講生に愛のムチをふるうマーケティング講師、金森努氏が森羅万象を切るコラム。街歩きや膨大な数の雑誌、書籍などから発掘したニュースを、経営理論と豊富な引き出しでひも解き、人情と感性で味付けする。そんな“金森ワールド”をご堪能下さい。

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2009年9月18日に掲載されたものです。金森氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


 JR東日本の駅構内に設置された自販機。実は通常の自販機と違うある特徴を持っている。お気付きだろうか。毎日何気なく通り過ぎる自販機。しっかりとウォッチして、その変化に気付いたあなたは、かなりマーケティングリテラシーが高いといえる。「何のことやら」と思うあなたは、頭の中の記憶を蘇らせてみよう……。

 自販機は言うまでもなく、販売チャネル(Place)の1つ。販売チャネルの構築は、顧客がその商品を購入する際にどんなニーズを持っているかを考え、それに応えることが基本だ。

 飲料を購入しようとした場合の顧客ニーズはなんだろうか。飲料に求めるのは、「喉の渇きをいやせること」。そのニーズにいかにすばやく対応するかが肝要だ。だから、買い置きを前提とした2リットルの大型ペットボトル入り飲料ならともかく、すぐ飲むことを前提とした500ミリリットル以下の飲料は、「いつでも開いているコンビニ」や、「どこにでもある自販機」がチャネルとして展開されている。

 ウオータービジネス社の資料によると、自販機は現在全国に約240万台が展開されているが、ここ何年も台数は頭打ちの飽和状態が続いており、清涼飲料販売におけるシェアが1990年代の50%弱から約35%にまで低下しているという。なぜか。品ぞろえが豊富なコンビニエンスストアがそのシェアを奪っているのだ。

 自販機で飲料を購入する時のことを思い出してみよう。街中で複数のメーカーの自販機が並んでおいてある場合などは、「どの自販機から買おうか」と考えることはあるだろう。しかし、喉の渇きを覚えてふと、目についた1台の自販機で飲料を購入しようとした時、茶系飲料にしようか、炭酸にしようかと一瞬考えはするものの、悩んだりはしないはずだ。なぜなら、選択肢がないからである。

 自販機は飲料メーカーが自社製品の販路確保のために展開し、メーカー系の「オペレーター」といわれる担当者が、商品の補給など自販機をフルメンテナンスしている。当然、各メーカー系の自販機は、自社商品一色となる。

 メーカーにとって自社商品が同一カテゴリーに複数の商品を展開することは、自社商品内のカニバリ(共食い)を招くことになる。ゆえに、まったくポジショニングがかぶる商品が同一自販機に展開されることはなく、消費者は知らず知らず、選択肢が与えられていない状況になっているのである。

 コンビニで飲料を購入する場合、弁当や菓子、その他商品を買った時の「ついで買い」が多いだろう。弁当の場合まず、どの弁当にしようかなと選んで買う。その後、飲料も飲料の棚の前で「どれにしようかな」と選んで買う。それはまさしく「買い物」である。しかるに、自販機での購入は「買い物」ではなく「補給」といった風情にしかならない。

 自販機にもジャパンビバレッジなどのベンダーが、複数メーカーの商品を混載して展開している例もある。オフィスに設置されたジャパンビバレッジの自販機は、ベンダー系のオペレーターが「入れて欲しい飲料があったらリクエストしてくださいね〜」と実に親切に対応してくれる。しかし、それらの自販機は街中の好立地に展開できていない。

 ウオータービジネス社が目をつけたのはまさにここのポイントだ。駅ナカ自販機を、メーカー各社の売れ筋商品をミックスした自販機「acure(アキュア)」へと変更し、顧客が思わず手に取りたくなる商品を揃えたのだ。複数メーカーの売れ筋商品が並んだ同社の自販機の品揃えを前にすると、確かにどれにしようか迷う。選択の自由を感じる。同社は自販機の低迷が、「供給者目線であったこと」にあると看破し、顧客目線へと変革したのだ。

 それだけではない。駅ナカという特性を利用したアイデアを次々と繰り出している。

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