舌と胃袋で感じられた……「長崎ちゃんぽん リンガーハット」の賭けそれゆけ! カナモリさん(1/2 ページ)

» 2009年10月13日 07時18分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]

それゆけ! カナモリさんとは?

グロービスで受講生に愛のムチをふるうマーケティング講師、金森努氏が森羅万象を切るコラム。街歩きや膨大な数の雑誌、書籍などから発掘したニュースを、経営理論と豊富な引き出しでひも解き、人情と感性で味付けする。そんな“金森ワールド”をご堪能下さい。

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2009年10月9日に掲載されたものです。金森氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


 リンガーハットの値上げは3年ぶりのことである。当時、世界中で食糧価格が高騰し、小麦をはじめとした穀物価格は最高値を記録していた。その原材料価格の上昇を定価に転嫁し、2006年9月、レギュラーちゃんぽんの値段が税込み399円から450円に引き上げられた。

 リンガーハットの多くの店舗はカウンターにスツールというファストフードスタイルであるが、399円というファストフードらしい手ごろな価格も人気の一因であったのは間違いない。それが10%以上の値上げで400円台中盤の価格になったのだ。結果として客数は激しく落ち込み、その回復に同社は大変な苦労をすることになった。

 昨年9月には当時の八木康行社長が辞任、2008年9月8日付け日経MJには、その理由として「原材料高を理由に〇六年九月に値上げ、客離れをひき起こした。その後、「背水の陣」(八木社長)で業績回復を目指したが、再建への道は険しかった」と記された。

 では、今度の値上げは大丈夫なのだろうか?

 価格設定には3Cの視点を持つことが必要となる。自社視点(Company)・競合視点(Competitor)・顧客視点(Customer)の3つである。

 2006年の値上げを考えてみよう。

 小麦などの原材料費の高騰は、生産原価の上昇を表わしている。価格設定における自社視点を、「原価志向」の価格設定といい、生産にかかったコスト(固定費+変動費=原価)にいくら利益を上乗せしていこうかと考える方法だ。一定の利益を確保するためには、値上げやむなしという考え方になる。

 もう1つの競合視点を「競争志向」の価格設定という。競合となり得る商品を特定し、競合と全く同じ価格にするか、その上下何パーセントくらいに設定するか、という考え方である。「長崎ちゃんぽん」の競合は、例えば「中華系の麺類=ラーメン」と仮定しよう。ラーメンの平均的な価格は、「その地域のタクシーの初乗りと同等」などといわれており、値上げしてもまだまだ競争力は保てると判断できる。

(出典:リンガーハット)

 しかし、問題は3つめの顧客視点だ。「需要志向」の価格設定という。端的に言えば、この視点は「顧客がその製品にどれだけの価値を感じてくれるか」ということである。この部分が欠落していたために、2006年の値上げによって顧客離反が相次いだと解釈できる。

 2006年以降も小麦の相場は上昇を続けた。政府の売渡価格は2007年4月に1.3%、同年10月に10%、2008年4月は30%、10月は10%値上げした。その間リンガーハットはさらなる顧客離反を回避するため、原価を価格に転嫁することをせずに踏ん張ったのである。

 しかし、相場は2008年夏から下落し、2008年6月〜2009年1月の平均買付価格は、2007年12月〜2008年7月より30.5%下がったのである。では、なぜこの時期に値上げなのだろうか。

 販売価格を40〜100円上げるという。2006年の値上げと同等かそれ以上である。

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