古きよき終着駅も通過駅へ――欧州の鉄道事情松田雅央の時事日想(2/3 ページ)

» 2010年01月06日 08時00分 公開
[松田雅央,Business Media 誠]

 「終着型駅」とはなじみのない言葉であるが、これはホームが行き止まりとなる駅のことで、入線した列車は先頭と後尾を逆にして出発する。欧州の大規模な駅によく見られるスタイルで、発着本数が比較的少なかった昔は問題なかったのだが、発着本数が飛躍的に増加した現代の交通システムには向いていない。終着型の駅はどうしても停車時間が長くかかり、ホームへの進入と発進時に多数の線路を横断しなければならない。また同時に複数の車両が発着するのは難しく、走行速度が制限され、多数のホームが必要となる。

 とにかく「複数の列車が並行して走り、1つのホームで数分おきに列車が発着する」ようなことはできない。計画によればホームはすべて地下化され「通過型の駅」に作り直され、ホームも16本から8本に減らすことが可能だ。

 地下ホームは開放感を保つため天井に多数の採光用丸窓が設置される。上部からこの窓を眺めるとちょうど「泡」のように見えるはずだ。1920年代に建設された駅舎はそのまま使われる予定で、丸窓と駅舎のコントラストはシュトゥットガルトの新たなランドマークとなるだろう。

中央駅のホーム(左)、中央駅の終着型ホーム(右)

地下に造られるホームのイメージ図(左、出典:TURMFORUM Bahnprojekt Stuttgart‐Ulm e. V.)、駅舎と採光用の丸窓(右、出典:TURMFORUM Bahnprojekt Stuttgart‐Ulm e. V.)

膨れ上がるコスト

 シュトゥットガルト21の計画発表から正式な実施決定まで16年もかかった最大の理由は建設費だ。1990年代後半からの景気後退に世界不況が追い打ちをかけ、莫大な資金を必要とするプロジェクトの実施は難しいタイミングである。そういえば、都市計画事務所で働く知人も、これまではなんとか確保できた地方自治体の仕事が激減したと嘆いていた。

 当初、プロジェクトの総工費は約25億ユーロと見積もられていたが、最新の見積り額は40億ユーロ。これがさらに50億ユーロまで膨らむ可能性がある。費用の負担は主事業者であるドイツ鉄道が11〜13億ユーロ、州が7億ユーロ、連邦が5億ユーロ、残りをEU(欧州連合)の補助金で賄う予定だ。

 計画に対しては市民から反対の声があがり、特に州議会の承認に手間取ったが、反対意見で最も大きかったのが巨額の費用負担である。

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