なぜ私たちは“仮想”アイテムを買うのか?――ソーシャルゲームのビジネスモデル新連載・野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン(2/4 ページ)

» 2010年01月08日 08時00分 公開
[野島美保,Business Media 誠]

ソーシャルゲームの可能性

 ソーシャルゲームの特徴は、友人を気軽に招待できることや協力して遊べることにあり、「コミュニティの力でゲームの魅力を高めていること」と言われる。しかし、これは従来のオンラインゲーム(MMO)でも実現されてきたことで、決して目新しいものではない。

 ソーシャルゲームの最大の特徴は「既存のSNSコミュニティにゲームコンテンツを後付けすること」である。このことから、今までにはないメリットが生まれた。

 1つは、集客のための時間とコストが大幅に削減されたことだ。通常のオンラインゲームでは、ゲーム認知のための広告からβテスト(≒無料プレイ期間)などの集客期間を経る必要があるが、1000万人規模のユーザーがいるSNSで展開すれば、そこに広告を出したのと同じ効果が得られ、集客の手間を大幅に省くことができる。

 さらに、すでに形成されているユーザー同士のコミュニティを利用して、「友達をアプリに招待する」というInvite効果もかなり期待できる。ゲームは友達と一緒にプレイした方が楽しいし、アプリを招待することの心理的なハードルも比較的低い。

 フレンドリストには載っているものの、日記にコメントを付けるほどの間柄ではなく放置しているという人間関係がSNSには存在する。「友人のページを訪問して足あと(アクセス履歴)を残しながら、日記にコメントを付けたりメッセージを送ったりせずに無言で立ち去ってはいけない」という風習(参照記事)も一部で生まれ、強制的に言語コミュニケーションをしなければならない重荷を指して「SNS疲れ(参照記事)」という言葉も出たくらいだ。

 しかし、サンシャイン牧場などで、一緒にプレイする友達の農園を訪れて、クリックして作物に水をやるというアクションは、心理的負担は小さく、気軽に続けられる。ソーシャルゲームは、ほどよい距離感を保ったライトな交流というSNS内の人間関係にマッチしている。

まだ議論されていないコミュニティ効果

 ソーシャルゲームにはそのほかにも、まだほとんど議論されていない特徴がある。「コミュニティがゲームとは別枠で形成されているため、ゲームへの定着(リテンション)が起こりにくいこと」である。

 オンラインゲームでは「友人関係を維持するために1つのゲームを続ける」というように、リテンション局面でコミュニティ効果が強く表れる。「そこでしか会えない」という状況にあるからこそ、ゲーム世界に対して執着が生まれるのである。ソーシャルゲームを止めても、これまでと同じようにSNS内で友達と連絡を取り合うことができる場合、そういった執着は生まれにくくなる。

 2001〜2003年にかけて、日韓のMMOゲームユーザーにアンケート調査を行ったところ、オフ会などでゲーム外でもコンタクトをとっているユーザーたちの間では、お互いに誘い合わせて別のゲームに行く「移民」行動が観察された。すなわち、そのゲームでしかコンタクトをとれないという強制力が外れた場合、集団単位で別ゲームに移ってしまう可能性が出てくるのである。

 調査当時のオンラインゲーム業界では、「コミュニティは活性化しさえすればよい」とされていた。しかし、ユーザー同士が結束した結果、移民という負の効果も生まれうると分かった今、「コミュニティを自社のゲームにどれだけ定着させるか」という視点が重要になっている。

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