「どうぞ戦ってください」といった鳩山総理の“敵”藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2010年01月18日 08時28分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 鳩山首相に渡されたお母さんの「善意」は別にして、小沢一郎幹事長の政治資金問題はそう簡単に収まりそうにない。検察当局は、要するに建設会社からの「賄賂」(わいろ)があったということまで立件したいのだろうと思う。まさか政治資金規正法違反だけで秘書を3人も逮捕したりすることはあるまい。もし検察が小沢幹事長本人まで迫ることができなければ、検察の“完敗”であると言ってもいいぐらいだ。

政治家の宿命

 それにしても鳩山首相が小沢幹事長に向かって言ったという「どうぞ戦ってください」という「激励」には仰天する。鳩山首相は行政の長である。司法当局も行政の一部だ。そして検察は法律の下に公正であることが前提となっている。その公正性に行政府の長である首相が疑問を投げかけるような(少なくともそう受け取られる)発言をすること自体が一国の首相としての姿勢が疑われると思う。もちろん首相は、後から「検察について言った言葉ではない」と釈明したが、世間も、検察もそして官僚たちもそうは思うまい。政治家の言葉というのは、よく「1人歩き」すると言われるが、それが政治家の宿命なのである。

 これも、民主党にとって最大の敵が自分たちであることの1つの表れだ。何と言っても、権力に慣れていない。もちろん慣れている人もいないわけではないが、それはごく一部にしかすぎない。

 野党でいた時代、民主党議員からよく聞かれた言葉は「マスコミが注目してくれない」ということであった。政権の座についたら、とたんにマスコミが鵜(う)の目鷹(たか)の目で追っかけてくる。それは当然だ。権力を握れば、今までのように言いっぱなしではすまない。政策に対する責任が重くのし掛かってくる。「赤字財政をどうするのか」と国会で追及した議員に、どうすれば赤字財政を救えるのかと取材にくる記者は少ない。政府や与党に「財政再建をどうするのか」と質問するのが普通である。

 そして責任を渡されたとたんに、いろいろ自分たちが言ってきたことが「非現実的」であるという冷徹な事実を突きつけられる。例えば普天間問題。これだけこじらせてしまったら、移設先として決まっていた辺野古にはもう戻れない(もし戻ったら、参院選で沖縄全敗を覚悟しなければなるまい)。そして米国との関係はかなり冷え込んでしまった。ということは、日本の国際的な発言力は前にも増して低下したというべきなのである。今まで日本をそれなりに支えてきたのは良くも悪くも米国である。「トラスト・ミー」と言ったのに裏切ってしまえば、鳩山首相がオバマ大統領といい関係になるのは、相当に難しいはずだ(いわゆる「知日派」の有力者の顔をつぶしているのだから、そこから再構築するのも大変だと思う)。

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