誰が夕張市の借金を返しているのか新連載・坂村宗彦の地方財政から格差を見る(1/3 ページ)

» 2010年01月19日 08時00分 公開
[坂村宗彦,Business Media 誠]

坂村宗彦(さかむら・むねひこ)

1965年生まれ。千葉大学大学院修了後、某大手シンクタンクで自治体の行革支援などを手がけている。


 私は東京23区内に暮らしていますが、たまに地方に出かけると、東京では見たこともない立派な小学校やぜいたくな施設に出くわすときがあります。中には、非常に安い値段で利用できる公営の温泉施設といったものもあり、「地方はお金を派手に使っていい気なものだ」「誰の税金でこんなぜいたくをしているんだ」という思いに駆られることもあります。

 その一方、地方では自らのお金の使い道よりも、「東京にばかり何もかも集中して格差が広がっている」という思いが強いようです。地方はお金があまっているのか、地方の税収はどのように確保されているのか。そんな話をこれから3回に分けて、なるべく分かりやすく解説していきたいと思います。

夕張市は税金を返せているのか

 最初に取り上げるのは、日本で最も厳しい財政状況にある地方自治体、夕張市の話です。北海道の中央部にある夕張市では2006年、本来認められない借金を大量に行っていたことが判明しました。日本の地方自治体は原則として国が許可しないと借金ができないことになっているのですが、その許可を得ていない借金が大量にあることが明らかになったのです。テーマパークの建設や病院の赤字など、さまざまな借金が積みあがった結果です。

夕張市公式Webサイト

 夕張市はかつて石炭の産地だったのですが、炭鉱が閉山された後、地域社会が維持できなくなり、それを国の政策でカバーしてきたという経緯があります。その政策も数十年を経て行われなくなったのですが、それまでにお金を使って行ってきた政策をまったくやめるわけにもいかず、夕張市自ら借金をして続けていた取り組みもあるようです。借金総額はおよそ600億円と言われていますが、これに対し夕張市の財政規模は45億円程度しかありません。6000万円の借金を年収450万円でどうやって返せるでしょうか。

 このように財政運営が立ち行かなくなったことが明らかになったことから、2007年に国から「財政再建団体」に指定されました。よく言われる「財政破たん」の状態です。その後国の法律が変わった関係で、財政再建団体は「財政再生団体」と名称を変えましたが、この状態を脱するためにやるべきことは変わりません。ごく単純な話で、収入を増やし支出を切り詰め、その中で借金を返していくしかありません。不適切な解消すべき借金は353億円。それを18年で解消するという計画が立てられています。

 夕張市役所は「財政再建計画の平成20年度(2008年度)実施状況」という報告書でその内容を公開しています。収入増は公共施設利用料金の値上げ、それから地方税(住民税)の税率アップが主なところ。そして支出の切り詰めでは、市職員は数を減らすとともに1人当たりの給料も下げました。マスコミの報道によると、家族が暮らしていけるかどうかぎりぎりの水準だと言われています。また、公共施設の多くを廃止し、維持・補修費用も切り詰めています。道路整備や小中学校の改修も絞り込んでいます。国と北海道庁が厳しいチェックを行っているので、ちょっとした支出も自由にはできません。

 その結果、2007年度に14億7000万円、2008年度は12億8000万円の返済をしています。この2年間は計画より多めに借金を返しており、その限りでは順調といえるでしょう。夕張市がこれほどの借金をしてしまったのはかなり問題がある財政運営が原因だったのですが、自ら収入を増やし、支出を切り詰めて借金を返していること自体は何ら問題がない、望ましいことです。

赤字解消の状況(出典:夕張市)
       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.