上司の“朝令暮改”に、キレそうになりませんか吉田典史の時事日想(2/3 ページ)

» 2010年04月09日 00時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

「朝令暮改」が止まらない、最悪の職場

 東京都内で、テレビ番組の制作を手掛けるA社(社員数60人ほど、売上は10億円前後)の事例を紹介しよう。この会社の経営者は50代前半で、創業は20年近い。社員60人のうち40人ほどは、テレビ局にディレクターとして派遣されている。社長の指示により困惑しているのは、本社に残る20人のほどの社員だ。2〜3人は総務と経理の部員。17〜18人が番組制作部の部員。この人たちの仕事はまずテレビ番組の企画を考え、それを放送局の番組制作部に売り込む。それが通ったときには、プロデューサーとして外部のスタッフ(ディレクター、カメラマン、編集マンなど)を雇い、番組を作り、完成品を放送局に納める。

 しかしこの会社の社長は、番組制作の経験がほとんどない。スチールカメラマンの出身だという。だが、責任感の表れなのか、20人に「こうしろ」「ああしろ」と盛んに指示する。社員がそれに素直に従わないと、「何が言いたいんだ!」と当たり散らす。ベテラン社員らによると、それらの指示は番組制作の常識からかけ離れているという。安易にその命令に従うと、トラブルが起きる可能性が高いようだ。

 すでに退職した元社員いわく「社長の命令に従うと、番組が崩壊し、納期に間に合わない」。こういったことを口にする社員は5〜6人いて、その全員が30代半ば以上の中堅・ベテラン社員。それでも、社長は絶え間なく指示を出す。そしてすぐに「そんなことをしていたらだめだ! こうしろ!」という。

 当然のごとく、社員らはふてくされる。社長はそれを押さえようとして、さらに当たり散らす。こうしたことを繰り返し、年に3〜8人ほどのペースで人が辞めていくという。社長はその社員たちを「根性がない」や「仕事への誠実さがない」と非難する。優秀な人が辞めていき、いつまでも残るのはお世辞にも優秀とは言えない、おとなしい女性社員のみ。

聞く耳を持っていない社長

 結局、本社のスタッフはなかなか人が育たない。派遣として社員を送り込んだことで放送局から支払われる「人材派遣料」で経営が成り立っている。しかし、ほかの番組制作会社の役員は「A社は番組制作会社ではなく、人を局に送り出す会社でしかない」と皮肉る。経営が放送局への派遣収入で成立している以上、この指摘は正しい。ちなみに、この会社は一応、人材派遣業の許可を取っている。

 社員からのブーイングが多い……と業界で有名になっていても、この社長は意に介さない。曲がりなりにも創業経営者であり、大株主である。見栄もあるのだろう。冷めた見方をすると、創業経営者とはこういったタイプが少なくないものだ。

 部下である社員が何を言っても、この経営者は聞く耳を持ってくれない。こういう職場では、朝令暮改はおそらく止まらないだろう。私は20〜30代半ばまでくらいの社員には、「こういう職場でも残った方がいい」とは言えない。ただし、安易な思いで辞めることには強く反対する。明確な考えを持って退職しないと、次の会社でもいい仕事をすることは難しいからだ。

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