「開国博Y150」「東京五輪招致」を巡る非合理な減額請求(2/4 ページ)

» 2010年04月13日 08時00分 公開
[中ノ森清訓,INSIGHT NOW!]
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不当な減額請求は下請法では禁止事項

 下請法では、その第4条第1項第3号で、発注時に決定した代金を、「下請事業者の責に帰すべき理由」がないにも関わらず、発注後に減額することを明確に禁じています。売り上げの見込み違い、発注側の事業の失敗などは、当然、下請事業者の責に帰すべき理由として認められません。

 今回のケースはいずれも委託先が下請法の適用対象でないため、この下請法の禁止事項に抵触しません。しかし、これは法的に問題がないということではなく、下請事業者以外の企業であれば、不当な要求を拒否することが可能だからという理由のみにすぎません。

 ですので、実際には詳細な契約内容や、契約締結までに虚偽の情報提供がなかったかなどを見なければ分かりませんが、横浜開港150周年協会の博報堂などのJVやアサツーディ・ケイとの特定調停の申し入れ、石原都知事の電通に対する一連の要求、日本旅行の訴訟は、法廷闘争に持ち込めば持ち込むほど、認められない要求になるものと予想されます。

トラブル処理はリスクマネジメントよりコスト高

 一般的に、トラブル処理はリスクマネジメントよりコスト高となります。そのため、最近ではトラブルをリスクととらえ、未然に防止策を講じるリスクマネジメントの考えが一般的となっています。

 今回のケースでも、弁護士費用や対抗資料の準備など、本来であれば不要な費用、作業が発生しています。これらは、訴訟に勝てば回収できるという考え方もありますが、訴訟に勝てないリスクもありますし、勝てても、あくまでも損害を埋めるだけで、利益が得られるわけではありませんので、その回収にかかるコスト、手間やリスクを考えると、見合わないものです。

取引先に借りを作ることは癒着の温床に

 今回のケースは、取引先から見れば、相手につけ込む格好の機会です。横浜市、横浜開港150周年協会、東京都、東京五輪招致委員会の当事者たちにしてみれば、自分たちの失敗をとにかくつくろいたい。また、問題がこれだけ公になってしまえば、余計に何らかの成果をこれらの騒動から得られなければ、さらに責任を追及される。

 こんな時に、すっと相手方から「分かりました。今回はそちらの要求を飲みましょう。その代わり、次に予定されている●●については、よろしく頼みます」と言われて、その誘いに乗ったふりをして、後で踏み倒すだけの覚悟のある人間がどれだけいるでしょう。まあ、こうした約束を反故にすると、後で徹底的につぶしにかかる相手との泥沼の戦いという別のいばらの道が待っていますので、たいていはここで絡めとられて、一生その取引先に頭が上がらないという状態を作り出してしまいます。こうしたところから、取引先との癒着が始まります。

 個人対個人であれば、恩義に報いるというのは大切な事です。企業間取引でも、借りをきちっと返していくことは、信頼関係を築いていく上で大切ですが、度を超した関係は癒着となり、公正な取引による適正な利益を失うもととなります。

 なお、東京オリンピック・パラリンピック招致委員会がまとめた「2016年オリンピック・パラリンピック競技大会 招致活動報告書(外部リンク、PDF)」によると、五輪招致活動における東京都の契約形態は、随意契約が金額で94.3%、件数で90.2%、競争入札が金額で5.7%、件数で9.8%となっています。また、実際の金額や相手先が開示されない一方で、わざわざ広告代理店との特定の1社からしか見積りを取らない特命随意契約を正当化する記述があることから、「随意契約のうちの多くの部分では、相見積りも取られていないのでは」と推察されます。これはあくまでも推察ですが、このようなケースでは、すでに、この広告代理店に都の関係者の多くが絡めとられてしまっているのかもしれません。

出典:東京オリンピック・パラリンピック招致委員会

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