基地問題で見えてきたもの。それは鳩山首相が“政治音痴”だったこと藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2010年05月10日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 普天間基地移設問題は、大方の予想通り、暗礁に乗り上げてしまった。あれだけ県外とか国外とかあおっておいて、挙げ句の果てに辺野古に滑走路を建設し、訓練など一部を徳之島に移転すると言われても、誰も受け入れに動かない。これほど地元の反対熱が強くては、容認派の人も大きな声では話せまい。こうなっては、地元の了承を前提とする米国が鳩山政権の「腹案」を受け入れる可能性はゼロである。

 今回、政府の腹案が明らかになったことで、気になることがいくつかある。本来、この普天間移設問題の座長は、平野官房長官だったはず。この問題に関して官房長官の影がすっかり薄くなったのはなぜなのだろう。鳩山首相の「思い」と、官房長官の「現実路線」が食い違ったということなのだろうか。そういえば官房長官は、以前にこんな内容の発言したことがある。1つは「辺野古も含めてあらゆる可能性は排除しない」、そしてもう1つは「防衛は政府の専権事項であるから、地元の同意がどうしても必要とは思わない」。こうした「思い」が、暴走しがちな首相にブレーキをかける精一杯の抵抗だったのかもしれない。

外交の舞台でリーダーの弱さは致命的

 その首相の暴走だが、仰天したのが沖縄で語った言葉である。当初、海兵隊が抑止力の重要な部分を占めるとは思っていなかったが、「学べば学ぶほど」そうではないことが分かり、すべてを県外に移設することは不可能という判断にいたったと説明したのである。理解が「浅かったと言われれば、そうだったかもしれない」とも語っている。

 ちょっと待って欲しい。そうすると、昨年の総選挙で民主党に圧勝させた有権者は、「浅薄な知識」しか持ち合わせていない人にリーダーシップを託したということなのか。いまさらそんなことを「告白」されても、有権者はどうしたらいいのか分からない。せめて参院選で民主党単独過半数はおろか、連立与党の過半数もつぶしてやろうと思うしかない。

 鳩山首相のこの発言を、「正直」だと評価する人もいるだろうと思う。確かに「嘘つき」よりはいいかもしれないが、それも時によりけり。一国のリーダーは、たとえ自分が浅はかだったと思っても、ただそれを正直に告白すればいいというものではない。なぜなら、国民はリーダーの弱さを受け入れることができても、外交の舞台ではリーダーの弱さは致命的ですらあるからだ。

 鳩山首相が就任直後に国連の舞台でぶち上げた温暖化ガス25%削減という目標。日本が本気でこの目標に取り組んでいると信じていいのかどうか、他国は迷うかもしれない。「理解が浅かった」と言って撤回されたら、重要な議論の前提がなくなる。いわば、2階にあがってはしごをはずされるようなものだ。

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