どこまで拡大するのか iPadの経済効果神尾寿の時事日想・特別編(3/5 ページ)

» 2010年06月02日 15時08分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

 さらにビジネス上のメリットもある。現在、家庭用ゲーム機の市場では、ゲームの中古販売や不正コピーによるメーカーの損失が大きな問題になっているが、App Storeを通じたダウンロード販売のみのiPhone/iPad向け市場は「中古ゲーム流通の市場が存在せず、不正コピーも難しい。これは大きなメリット」(ゲームメーカー幹部)なのだ。

 一方で、市場参入のハードルが低いことによる過当競争・ゲーム単価値下がりの課題も存在するが、iPad向けゲームはクオリティの高い表現が可能なことから、iPhone向けゲームよりも1000〜2000円ほど高い価格設定が一般的になっている。また、アプリ内課金システムの存在によってアイテム課金も可能なため、「コスト構造と収益モデルの変革をすれば、iPad市場もゲームのプラットフォームとして十分に魅力的になる」(ゲームメーカー幹部)という。iPad向けコンテンツというと電子書籍に注目が集まっているが、ゲームも市場の拡大を進める牽引役になりそうだ。

 Appleは以前からiTunes Storeを通じたコンテンツ/アプリの配信プラットフォーム構築に注力しており、簡単かつ安全な認証・課金システムを用意し、ユーザーが使いやすい利用環境を整えてきた。iPodやiPhoneなど近年のヒットモデルは、単体の製品の魅力だけでなく、こうしたコンテンツ配信ビジネスとの二人三脚で成功したのである。

 iPadはその使いやすさと、iPhone以上にクオリティの高いコンテンツ/アプリが利用できる点から、このAppleのエコシステムを質・量ともに拡大する役割を担うだろう。iPadの販売台数が伸びるごとにコンテンツプロバイダーから見たiPad市場は魅力的になっていき、それによるコンテンツの充実がさらにユーザーを惹きつけるのだ。

モバイルWi-Fiルーターにも特需

 iPadによる市場活性化は、コンテンツ分野のみにとどまらない。携帯電話キャリアにとってもiPadは「重要かつ魅力的な存在」(大手キャリア幹部)だ。

 周知のとおりiPadは、3G(第3世代携帯電話)の通信サービスとWi-Fi (無線LAN)を併用する「Wi-Fi + 3G」モデルと、無線LANのみ搭載した「Wi-Fi」モデルの2つがラインアップされている。

 前者のWi-Fi + 3Gをめぐっては、NTTドコモがSIMロックフリーでの投入を前提に、iPadが採用するマイクロSIMの供給を表明。Appleに対して秋波を送ったものの、ソフトバンクモバイルがSIMロック付きでの独占販売権を獲得したという経緯がある。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.