神保町「古書大入札会」で電子書籍の未来を考えた郷好文の“うふふ”マーケティング(1/3 ページ)

» 2010年07月08日 08時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

著者プロフィール:郷 好文

マーケティング・リサーチ、新規事業の開発、海外駐在を経て、1999年〜2008年までコンサルティングファームにてマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略など多数のプロジェクトに参画。2009年9月、株式会社ことばを設立。12月、異能のコンサルティング集団アンサー・コンサルティングLLPの設立とともに参画。コンサルタント・エッセイストの仕事に加えて、クリエイター支援・創作品販売の「utte(うって)」事業、ギャラリー&スペース「アートマルシェ神田」の運営に携わる。著書に『顧客視点の成長シナリオ』(ファーストプレス)など、印刷業界誌『プリバリ[印]』で「マーケティング価値校」を連載中。中小企業診断士。ブログ「cotoba」。Twitterアカウントは@Yoshifumi_Go


 今年もぶらりと神田神保町の東京古書会館に出向いた。第45回明治古典会「七夕古書大入札会」に参加するためだ。

 今年のテーマは“紙と文化のオークション”。一般の人も参加できる今年の七夕オークションには、稀少な書籍だけではなく、著名作家の生原稿や草稿、色紙や画稿など手書きの史料がたくさん。庶民文化を伝える明治・大正のエンタイヤ(封書や葉書に切手が貼ったままのもの)や包装紙などのコレクションも面白い(一般下見会は2010年7月2日と3日、4日は業者入札会)。

 昨年の今頃、この古書大入札会をテーマに「お宝本を探せ!――神保町の古書交換会でプロの技を見た』と題したエッセイを書いた。古書のプロたちが、いかに同業者に出し抜かれずに稀少本やコレクターアイテムを落とすか。門外漢にはいと面白かった。今年も何か新発見があるだろうか? 盟友の林田浩一さん(デザイナー/コンサルタント)と“ある仮説”を心に抱きつつ訪れた。

暮らしの中のアートに感動!

 古書会館の2〜4階にところ狭しと古書や美術、コレクションが並ぶ。4階から順繰りに見ていくことにした。

 「梶井基次郎は読みやすい字だな」(目玉出品の『闇の絵巻 草稿』は最低価格300万円)。

 「三島由起夫の原稿は、背を正したくなる達筆だ」

 「植草甚一の油彩葉書、スゲー迫力!」

 「草間弥生のシルクスクリーン、あんがい安いな」「エディションが100もあるからだろ」

 「井上有一の殴り書きの手紙か」「本人もまさか手紙を売られるとは思ってなかっただろうに」

 2人で言いたい放題。まあ去年も見ている分、私の中ではどこかデジャブ(既視感)があった。だから去年よりはスルーしてしまって、「果たして記事になるだろうか?」と期待薄になりかけていたところで、私たちはふと足を止めた。

 それはポチ袋コレクション。『御祝儀袋貼込帖』は、市井のコレクターが木版画の御祝儀袋を集めて丁寧に貼り込んだ1冊。総数250枚が1枚1枚、几帳面に並べられたページを繰ると、色合いや質感い、ただづまい、レトロとひと言ではくくれない息吹が伝わってくる。時代を生き延びたポチ袋の何たる美しさよ。入札最低は30万円。その価値はある。

『御祝儀袋貼込帖』

 その隣には『駅弁レッテル貼込帖』があった。全202点、40万円。あとでカタログを見ると“古今亭志ん馬 旧蔵”とある。落語の大家が寄席の旅の道中、食べた弁当だろうか。

 どちらも資料価値としては博物館収蔵品的だが、年代別や地域別など史料考証がほどこされてはいない。それでも程度の良さと物量に圧倒された。作為的なアートではなく、暮らしの中のアートに感動した。

『駅弁レッテル貼込帖』
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